水の都の巫女 | ナノ


06

 博物館にいたレッドと合流して私達はスカイアローブリッジを渡ってヒウンシティに到着した。

「わぁ、広い!」『ひろーい!』

「タマムシを思い出す」

「コガネと違って高い建物が多いし、船着き場もあるね!ちょっと休憩してからライモンを目指す?」

「うん。それにジルチはこの街の名物アイスを食べるだろ?」

「え」

―ヒウンアイス。ヒウンシティにある名物アイスで訪れたら絶対食べたいと思っていた。まさかその事を言われるとは思わなかったから驚いた。

「いつもより歩く速さが違ったし、ポケナビでヒウンシティのページを何度も見てたから僕も気になったんだ。そしたらトップページにヒウンアイスが…」

「うん、そうだよっ!ヒウンアイスが食べたいから早く来たかったよ!バニプッチの可愛らしいアイスを…!」

「だったら、最初からアイス食べに行こって言えばいいのに」

「うぐぐ…だって、奴らの事で警戒しなきゃいけないから呑気にアイスを食べに行こなんて言えないよ…」

「それジルチの悪いところ」

「いたっ」

レッドに頬を指でつつかれて地味に痛かった。モードストリートへ向かうレッドについて行くと行列ができているピンクと白のストライプのお店が見えてきた。

「ずっと警戒してたらいざって時にちゃんとした判断ができないと思う。シロガネ山で過ごしてた時リングマに怯えながら寝てた?」

「……」

確かにリングマや野生ポケモンの襲撃に怯えながら寝てはいなかった。レッドが隣にいるからだけじゃなく、いつ、何があるかわからないのが当たり前だからだった。
それにジョウトで旅していた頃もロケット団に怯えながら過ごしてなかった。悪の根元がプラズマ団だとわかって、知らぬ土地に来たから周りに意識しすぎていた。

「うん…ごめん。意識しすぎだったね」

『ぼくとレッドがいるから大丈夫!悪いヤツら倒すよ!』

「今は情報集めしながら奴らのアジトを探す。見つけるまで落ち着いていこう」

「うん!」

レッドと行列の最後尾に並ぶと前に並んでいる人が私達の方に振り向いた。

「うん?ここでは今、ヒウンシティで話題のスィーツを買う事ができるんだよ。君も買う為に並ぶかい?」

「はい!」

「そうかー。結構並ぶぞー!でも絶対美味しいから並ぶ価値はある!」

「そうですねっ」

列に並んでいる間、レッドと何個買うか話していると順番が来た。

「ヒウンシティ名物ヒウンアイスになりまーす。1個100円です。お買い上げになりますか?」

「じゃあ―」

「また迎えに来ますよ、ジルチ」

「!!!」

「ジルチ?!」

「……ッ!」

今……前に並んでた人が私の横を通りすぎる時…アイツの声が聞こえた。振り向いたらその姿はなく、私の背筋に寒気だけ残していった。

「お客様?」『ジルチ…?』

「…!14個くださいっ」

「ありがとうございます!このキュートな色とナイーブな味がいいんです!」

私はお目当てのヒウンアイスを手に入れて、セントラルエリアの噴水の前で手持ちを全員出した。皆ヒウンアイスを食べて喜んでいるのを見て安心しているとレッドが私の顔を覗き込んできた。

「ジルチ、何かあったよね」

「うん。アイスを買おうとした時…前にいた人が話しかけた時の声じゃなく、ランスの声で話しかけてきた」

「!!」『ランスやてッ!?』

ランスの名を言った途端、レッドの顔が険しくなってリーフィアは大声を出して私の横に飛び込んできた。

「また迎えに来るって言い残していったから慌てて振り向いたけど、姿がもう見えなくなってて…」

『あん野郎またジルチを狙っとるんやな…!!』

『ジルチをヒドイことしたヤツ!』

「…ロケット団は解散したけど幹部達全員捕まったわけじゃない。ジルチを狙って追いかけて―」

『来たんやな!!』「「来たじゃない」」

『えっ?ちゃうん!?』

来た、と思ったけど私達がイッシュ地方へ向かった事を知ってるのはワタルさんと身内だけ。その情報をどこからか入手してランスが私を追いかけてきたとは考えにくかった。

「…あの極秘資料!アレにはプラズマ団の事がちょっと載ってた!」

「もしかしたらランスはプラズマ団に潜んでるのかもしれない」

「何て執念深い奴…!!」

ロケット団が解散した今、私を狙う組織はプラズマ団のみ。ランスはわざわざイッシュ地方へ来てプラズマ団に入団した可能性がある。

「とりあえずアイス食べよ?溶けかけてる」

「あ!」

アイスの形が崩れてホラー映画に出てきそうな不気味なバニプッチになっていた。手持ちを戻してリオルとピカチュウがじゃれているとジム通り方面から声が聞こえてきた。

「おーい!!」

「あれは…アーティさんだ」

アーティさんは私達の元に駆けつけると慌ただしそうにしていた。

「君……ヤグルマの森でプラズマ団と戦ってくれた……確か名前は……ジルチさん!」

「そうです。どうかされましたか?」

「連絡があってさ、プラズマ団が出たらしいんだ!というか君も来てよ!プライムピアって波止場に行くからさ!!」

「ジルチ!」

「うん!アーティさん追ってプライムスピアへ行こう!」

私達はプラズマ団が現れたというプライムスピアという波止場へ向かった。

「こっちこっち!」

アーティさんに呼ばれて近寄ると博物館で見かけた女の子達がいた。

「プラズマ団……この子のポケモンを奪ったって」

「ポケモンを…!」

「……トウコどうしよう。あたしのムンナ……プラズマ団に盗られちゃったあ」

「アタシがベルから目を離してた隙に狙われちゃって…プラズマ団許さない!」

トウコさんは怒りで肩を震わせていた。

「あたしね、おねーちゃんの悲鳴を聞いて必死に追いかけたんだよ!……でもこの街大きいし、人ばかりで見失っちゃったの」

「アイリス……君はできる事をしたんだから」

「……でも、ダメだもん!人のポケモンを盗っちゃダメなんだよ!!ポケモンと人は一緒にいるのがステキなんだもん!お互いないものを出しあって、支え合うのが1番だもん!」

アイリスという女の子の言う通りだと思って頷いた。

「……アイリスちゃん」

「うん!だからボク達がポケモンを取り返す。ね、ジルチさん」

「はい!私達もプラズマ団からポケモンを取り返すの協力します!」

「ありがとうございます!」

「……とはいえ、このヒウンシティで人探し、ポケモン探しだなんてまさに雲を掴む話」

「どんなポケモンなのかわからないから波導じゃ探せれない…」

どうやってこの大都会のヒウンシティでプラズマ団を探すのか悩んでいるとトウコさんが大声を出して叫んだ。指を差す方向に振り向けばそこにはプラズマ団の団員がいた。

「あー!!」「!?」

「何でジムリーダーがいるの!?折角上手くいったからもう1匹奪おうとしたのに……って、逃げなきゃだわ……!!」

「ジルチさん、行くよ!アイリス!君はその子のそばにいて」

「はい!」

「あたし、ベルおねーちゃんのボディーガードをしてる!だからおねーちゃんとおにーちゃんは悪いやつを追いかけて!」

「わかった!!」

再び、私達はアーティさんの後を追ってセントラルエリアの方面へ走った。


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