水の都の巫女 | ナノ


01

 ホウエンにイッシュ地方行きの飛行機があったから私達は空港へ向かった。シンオウ地方へ向かう時と同じでお父さんとラティアスが見送りに来てくれた。

「お父さん、行ってくる」

「気をつけて行ってくるんだよ」

「うん!」

寂しげな表情をしつつ、お父さんは私の頭を撫でた。頭を撫でられて喜ぶ年齢じゃないから少し恥ずかしかった。

「あたしも一緒に行きたいけど…ダメ、だよね?」

「うん…ゴメンね、ラティアス」

こころのしずくを持つ護神だったからお父さんが拐われた理由かもしれないけど、その妹でもあるラティアスも狙われる可能性はある。だからまだ知らぬイッシュ地方に連れていくのは危険だと思った。

「ううん、いいよ!その代わりにちゃんと帰ってきてね!」

「もちろん!」

ラティアスが右手を挙げたからハイタッチをした。ちゃんと組織を壊滅させて無事にレッドとホウエンへ帰ってくると決めた。

 飛行機の搭乗時間になったから私達は移動して座席に座った。飛行機に乗るのは初めてだから少しわくわくする。

「移動がリザードンとか船だったから飛行機は初めて!」

「僕もだよ」

機内の案内を聞いたり、雑誌を読みながら過ごしているうちに私はいつの間にか眠っていた。
深く、暗い夢を見るくらいに―

「―…!……!」

「……」

「―ジルチ、起きて!」

「…!お、おはよ…?」

「おはよう、イッシュに着いたよ。……顔色悪いけど大丈夫?」

「う、うん…大丈夫」

顔色悪いと言われて相当悪い夢を見たんだと改めて思い知った。

「……(レッドが負けるなんて…ない、よね)」

夢で誰かと戦ったレッドは負けてしまい、私と離ればなれになるのを見た。ただの夢ならそれでいいのだけど来てる場所が場所だから不安が募った。

「とりあえず空港を出たらどこを目指す?」

「目撃されてる街が複数あるから…まずはカラクサタウンに行こ」

「わかった。リザードン、カラクサタウンまでよろしく」

ポケナビが全国マップ対応してたからイッシュの地図をリザードンに見せて、カラクサタウンへ飛んでいってもらった。

「ありがと!」

「お疲れ様」

空から見た景色は意外と森があったり、都会があったり、大きな橋もあった。ここ、カラクサタウンは森が近くにあるからツルが生い茂っている。

「ジルチ、ボールが揺れてるよ?」

「ん?あ、リーフィアとリオルのボールが揺れてる…どうしたの?」

腰にある2つのボールを持つと2匹が勢いよく出てきた。リーフィアは周りを忙しなく見渡していて、リオルは私の腕に飛び込んできた。

『緑…!森の気配がしたんやけど何処やっ』

『ジルチがすごく不安な波導を出してたから心配になって……!!』

リーフィアの理由はさておき、リオルに悪い夢を見たからと伝えた。

「リーフィア、シッポウシティの近くにヤグルマの森があるよ。一応ライモンシティまで歩いていくつもりだからその森を通ってゆくよ」

『マジで!一緒に歩くからジルチの護衛任せとき!』

『ぼくも!!』

「2匹ともありがと」

「僕もいるよ?」

「わかってる」

レッドは私の左手を握って微笑んだ。大丈夫、レッドは負けないし頼りになるから信じてる、と心から思った。

「何か広場で始まるらしいぞ!」

「んじゃ、ちょいと行ってみるかね」

「ジルチ、何か始まるみたいだよ」

「気になるから私達も行ってみよ!」

街の人が続々と広場へ向かっているから私達も気になって人混みに紛れ込んだ。
そこには―資料で見た紋章の旗を持った白服の集団がいた。

「…!!」

「あの連中って資料にあったよね」

「うん。ヤツらだよ」

何が始まるのか待っていると長身の男が現れた。

「私はゲーチス。プラズマ団のゲーチスです。今日、皆さんにお話するのはポケモンを自由にしましょうという事です」

「えっ?」「何?」

「………」

何人かが一体何の事だと呟きつつゲーチスの言葉を待った。

「我々人間はポケモンと一緒に暮らしてきました。お互いを求め合い、必要し合うパートナー。そう思っておられる人ばかりでしょう。ですが、本当にそうなのでしょうか?我々人間がそう思い込んでいるだけ……そんな風に考えた事はありませんか?」

『んなワケあるかいな!』

人混みではぐれないよう抱えたリーフィアが抗議した。その言葉に肩にいるリオルが頷いた。

「トレーナーはポケモンに好き勝手命令している……。仕事のパートナーとしてもこき使っている……。そんな事はないと誰がはっきりと言い切れるのでしょうか」

『ぼくらが言いきれる!』『正しい判断してくれるし、最高のパートナーや!たまに暴走するけどな!』

「そんな」「ドキ!」「わからんよ」

「………」

好き勝手に命令して、こき使われて嫌ならポケモン達が訴えてくるはずだと思った。…ただ、この観衆の中に何人か心当たりある人がいたけど、わからない、意識した事がないという反応がほとんどだった。

「いいですか、皆さん。ポケモンは人間とは異なり、未知の可能性を秘めた生き物なのです。我々が学ぶべき所を数多く持つ存在なのです。そんなポケモン達に対し、私達人間がすべき事は何でしょうか」

「なあに?」

「お互いに理解し合えるような関係作りじゃないかな」

「そうだね」

ポケモンだけじゃない、人間も様々な可能性を秘めていると思う。その可能性を引き出すのはお互い分かち合えるパートナーが居てこそだと旅をして経験した。

「解放?」

誰かが"解放"と言った途端、ゲーチスは大きな声を出した。

「そうです!ポケモンを自由にする事です!!そうしてこそ、人間とポケモンは初めて対等になれるのです。皆さん、ポケモンと正しく付き合う為にどうすべきかよく考えてください。という所で、私ゲーチスの話を終わらせていただきます。ご静聴感謝致します」

ゲーチスの演説が終わり、ゲーチスとプラズマ団は立ち去っていった。

「今の話…わし達はどうすればいいんだ?」

「ポケモンを解放ってそんな話ありえないでしょ!」

ゲーチスの演説に困惑する街の人達は口々に思った事を言って広場から去っていった。いい事を言ってるように見せかけて、実際はトレーナー達からポケモンを手放すよう指示するものだった。

『あのオッサン、何が言いたいんやろな』

『ポケモンの気持ちわかってないよ!』

「まぁ…簡単にわかればより良い関係は築けるだろうけど、そう上手くはいかないよ」

「長年連れ添ったポケモン達なら言葉が通じなくてもわかるよ。はっきりと伝わらなくても何となくわかったりね」

レッドの肩にいるピカチュウがレッドに頬擦りをして愛情表現をしていた。

「そうだね。このままプラズマ団の動きを調べながら次の街に行こ!」

「次はサンヨウシティ過ぎてシッポウシティ?」

「そそ!実はシッポウシティに博物館があるんだけど…」

「行ってみたい?」

「うん!」

『ジルチ!もう降ろしてええで。おーきに』

「そうだったね」

リーフィアを地面に降ろすと駆け足で誰かがこっちに向かってきた。


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