水の都の巫女 | ナノ


11

 梯子を上りきると、そこは空の柱の頂上で巻物に書いてあった龍召の祭壇と呼ばれる場所だった。階段を上ると周りは雲一面で下の景色が全く見えなかった。

「……ほら、シガナ。見たいって言ってたよね、シシコ座流星群。お空に輝くたくさんの星がこれから降り始めるんだよ」

『にょっ!にょーっ!』

「嬉しいのか〜?嬉しいのか〜?シガナぁ〜。あはは」

シガナとヒガナさんの様子をやや離れた場所から見ていると彼女は真剣な表情になった。

「……ようこそ、龍召の祭壇へ。ジルチ、もう私が何をしようとしているのかわかってもらえたよね」

「レックウザの降臨」

「そう、レックウザを現世に召喚し…ここ、ホウエンめがけてやってくる隕石を何とか破壊する……それが私…達の使命。……小さい頃から空を見上げるにしてる。不安がいっぱいで心が押し潰されそうな時も悲しくて、寂しくて、心が折れそうな時も絶対涙を流さないように。君はどう?そういう事ってある?」

お母さんのお墓の前でこれからの事を伝えた時、空を見上げたような気がする。あとハヤトさんの家に住んでいる時に夜な夜な部屋から抜け出して屋根に飛んで夜空を見上げてた事がある。

「お母さんが亡くなって…ライボルト達と旅に出た時とかはそうだった、と思います 」

「そっかあ。…………こうやって、よく星を見ていたの……シガナとも。楽しい時も、悲しい時も、いつも一緒だった。大好きだった。心から愛していた……でもいなくなっちゃった」

「……」

ヒガナさんにとって、その"シガナ"という人物は親族のような大切な人で今は…亡くなってるようだ。

「………。あはは……会いたいな…会いたいよ……シガナぁ…………」

ゴニョゴニョのシガナがそんなヒガナさんの言葉に疑問を抱いていた。自分はシガナなのに会いたいなんてどうして?という感情が読み取れた。
ヒガナさんは一呼吸するとさっきとは違う雰囲気になった。

「……よしっそれじゃあ、いっちょやってみっかな。……今まで色々ごめんだったね」

「謝るのはリシアさん達ですよ」

「……。私にもしもの事があったらこの子を……お願い……」

シガナは私の隣にやって来た。ヒガナさんは祭壇の真ん中に立ち、祭壇に並べられたキーストーンの前で祈るように手を構えた。

「…………フゥ……。数多の人の御霊を込めし、宝玉に―我が御霊をも込め申す」

ヒガナさんの持つキーストーンと祭壇にあるいくつものキーストーンが眩い光を放ち出した。その凄まじいエネルギーの放出に空の柱は揺れ始めた。

「……グッ…うっ…うぅ…。汝……我が願いを何卒、何卒…っ叶えたまえ…っ……。叶えろっ!レックウザぁぁぁっ!!!」

ヒガナさんが空に向けて叫びを上げると何かが降りてくる気配がした。

『ジルチ!』

「…来るッ!」

儀式により空から萌木色の…伝説のポケモン、レックウザが降臨した。
龍召の祭壇に降りたレックウザは雄叫びを上げた。

『きりゅりりりり…………ッ!!!!!』

「レックウザ…!」

「!!」

『きりゅりしゃあああ…………ッ!!!!!』

「レックウザ……!……やった!やった!……これで世界は救われる!シガナ……やったよ!……さあ、レックウザ!私の祈りを受け取って!あなたのメガシンカを!その真の力を!真の姿を見せて!世界を救うその真の姿を!」

これでレックウザがメガシンカをして隕石を破壊してくれると思っていたけど、ヒガナさんのキーストーンが反応しない。

「……!?ど…どういう事!?あなたの力に耐えうるだけのキーストーンを集め……あなたは降臨した……。なのにっ!何故っ!?ねえ!してよ!メガシンカしなさいよ!何で!?何で……!」

「…………(まさか…)」

ヒガナさんのキーストーンは反応しない事に冷や汗が流れた。するとレックウザは呟くように話しかけてきた。

『力が、足りぬ……』

「力が…足りない、だって…?」

「………!?……まさか、力が足りないのはレックウザの方……?レックウザの体内にあるはずの隕石が……足りていない……?1000年の時の中で力が弱まって―……そ……ん…な………こんな……私の……私の…。……やってきた…事……は……?」

「ヒガナさん……」

「シガナ……。……もう…こんな事って……」

ヒガナさんはショックのあまりに崩れ落ちてしまった。

「……リオル、確か波導を与えたら多少力が戻るよね?」

『戻るけど…与えすぎたら危険だよ?』

「大丈夫、全部を与えないから。…気晴らし程度にしかならないかもしれないけどレックウザに波導を与えてみる」

私は右手に自分の波導を込め、ヒガナさんの前に出てレックウザと向き合った。

「レックウザ、私の波導を受け取ってほしい」

『…其方のか?』

「全部は渡せないけど…与えれる範囲を与えるから……」

『わかった』

右手をレックウザに向けて波導を与えてみた。さっきよりレックウザの波導は満ちているけどメガシンカができるほどなのかわからなかった。

「……、どう?」

『…………』

「……」

レックウザは静かに顔を横に振った。私にできる事は…これ以上ない。

『この地のどこかにある、エネルギーの満ちた隕石はないか』

「隕石?」

『それがあれば力が戻るかもしれない』

「……今から私が探しに行くのは間に合わない…そうだ!」

こんな時、こんな時だからこそ誰かに助けを求めないと。1人で悩んでも意味がない…私は袖にあるポケナビを取り出してリシアさんにかけてみた。

[もし…し、どないした…や?]

「あ…っ!リシアさん、最悪な事態になりました……!レックウザの力が足りなくて…メガシンカができないです」

[なんやて…!]

「レックウザ曰く、エネルギーが満ちた隕石が必要みたいなのですが…石の洞窟、流星の滝にはそのような隕石を見かけてないんです…!!波導を与えてみても全然足りなくて、私、どうしたら……っ」

[エネルギー…ザザッ…満ちた隕石……もしかしたら…!]

電波が悪いのか少し音が途切れ途切れになっている。

[ジルチちゃん落ち着き!今、リーグにおるワタルさ……に会ってるねん]

「ワタルさん達と?」

[うん。それで彼らを呼んでくれてありがと…な、ジルチちゃん!]

「どういたしまして。早めに連絡をして正解でした」

[ホンマ助かったで…!それで…の隕石の事やね…ザザッ…ザ…ど心当たり…るねん]

「本当ですかっ!?」

[今、空の柱やんな?トクサネに戻ってすぐ届けるわ!!待っと…やっ]

「ありがとうございます…!」

[んじゃ!]

ワタルさん達と合流できたみたいでリシアさんは嬉しそうにしていた。それにエネルギーの満ちた隕石について心当たりがあるみたいですぐに届けに来てくれるらしい。

「…何とかなりそう、かな」

「……ジルチ、レックウザの言葉…わかるの?」

「そうですよ」

「流石、夢幻の民とも言われているラティオス達と共に生きた者だね。ポケモンの言葉がわかるなんて少し羨ましいよ」

「最初はテレパシーを使えるポケモン達から話しかけてきたけど、波導を使えるようになってから自然と言葉がわかるようになりました」

「そうなんだね……」

ヒガナさんはそれ以降話しかける事はなく、ただ静かに空を見上げていた。


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