水の都の巫女 | ナノ


10

 洞窟内で皆を治療するとリオルがいつも通り肩に飛び乗った。

「治療はしたけどもう大丈夫なの?」

『平気!ねえ、ぼくの活躍どうだった?』

「もう最高だったよ!次もよろしくね」

『任せて!』

「さて…この先にヒガナさんがいる。気を引き締めて行こう」

しばらくまっすぐ歩いて空の柱に辿り着くと、1階にある梯子の前にヒガナさんがいた。

「来てくれたんだね。ありがとう、ジルチ。グッドだよ、グッときたよ」

「リシアさんの伝言通りに来ましたよ、伝承者ヒガナさん。用はなんですか?」

「そうだね。そんなグッとガールなキミには私のとっておきをあげる。見て……この搭の中に描かれた壁画を……」

それは石の洞窟にあった壁画と同じようなものが描かれていた。

「これはね、私達のご先祖様…流星の民達が数1000年をかけて語り継いできた人、ポケモン、自然の歴史なんだ。……それじゃ、私からキミにその歴史を伝承するよ」

壁画を見上げるとヒガナさんは静かに語り始めた。

「数1000年前、原始の頃…地上には自然のエネルギーが満ち溢れていた。ゲンシカイキしたグラードンとカイオーガはそのエネルギーを奪い合い、激しい衝突を繰り返していた。ゲンシカイキしたグラードン、カイオーガの力を前に人々のなす術はなく、ただその脅威が過ぎ去るのを待つしかなかった。そんな中、天空のさらに上、漆黒の宇宙から数多の隕石が降り注ぐ」

「……」

「隕石はドラゴンポケモンを使う一族が住んでいた滝を直撃したのだった……」

「それが…流星の滝ですね」

「……はいっと!まずはこの辺で第1話終了です。第2話は次の階でね。お楽しみね!」

ヒガナさんは梯子を上って上の階へ行ってしまった。

「全然楽しみにできないよ…。とにかく上の階へ飛ぼう」

床はボロボロで梯子を使ってもよかったけど少し不安だったから穴の空いてる場所を飛んで通って行くと3階にヒガナさんが待っていた。

「おっ!来たね。はいっと!それではお待ちかねの第2話スタート!ぱちぱちぱちぱち―」

「……」

緊張感がなさすぎる。そんな私の視線を無視してヒガナさんは第2話を語りだした。

「隕石はまるで、生命を宿したかのように七色に輝きだした。すると、その輝きに反応したかのように萌木色の輝きを纏うポケモンが天空から舞い降りた。……かのポケモンはレックウザ。レックウザはゲンシカイキした2匹さえもその力で圧倒し、世の中に平穏を取り戻した。ホウエンの人々はレックウザを救いの神として崇めた。それから1000年後、再び宇宙から隕石が落下してきた。1回目よりもさらに巨大な隕石は海さえも抉り、巨大なクレーターを作った」

「この時できた場所は、ルネシティ…」

「はいはーい、第2話おしまい!まだまだ前半戦だからね!ちゃんとついてきてね!」

そう言ってヒガナさんはまた上の階へ行った。まだ前半だとすれば話が長そうだと思いながら後を追った。4階に飛ぶと梯子の手前にヒガナさんがいた。私が着地したのを見てから再び語り始めた。

「……いよいよ物語は佳境に入ってきたよ。そう、君が知ってる通り、巨大な隕石によってルネシティはできたんだね。巨大隕石に続いて人々を更なる災厄が襲う。隕石の直撃によって、ホウエンの大地はひび割れ…奥底に貯まっていた自然のエネルギーが溢れだした。そのエネルギーを求めて、ゲンシグラードン、ゲンシカイオーガが目覚めてしまったのだ」

「……」

「人々は願った。1000年前を思い出し……あの萌木色の輝きを纏った伝説のポケモンが現れる事を……。その時、ルネの中心に落ちた巨大な隕石が溢れんばかりの輝きを放つ。それはまるで巨大なキーストーンのようだった。すると再び天空より舞い降りるレックウザ。降臨したレックウザに人々は、さらなる祈りを捧げた。するとレックウザの姿に変化が現れる。眩い光に包まれたのちに現れたその姿は、人々の知るレックウザとは違った。さらに神々しく、さらに圧倒的な生命力に満ちていたのだ。人々の祈りと七色の石に反応して、姿を変えたレックウザ……祈り……。目に見えない不確かなもの。人とポケモンが祈りによって結ばれ、ポケモンの姿が変化する……。……なんだろうね。何かに似ていない?」

「メガシンカ…」

「……そう、まるでメガシンカみたいだね」

ヒガナさんはついに何も言わずにその場を去ったからすぐに5階へ追いかけた。

「……さてさて、祈りによって姿を変えたレックウザは人々を救ってくれたのかな?」

その言葉に「え、そうじゃないのか?」と思ってしまった。

「ゲンシグラードン、ゲンシカイオーガと再び合いまみえるレックウザ。その身体から伸びる金色の髭が空を覆うと、周囲には萌木色の輝きが照りつけ、凄まじい風が吹き荒れた。光と風はみるみるうちにゲンシグラードン、ゲンシカイオーガの力を奪っていった。そうしてゲンシの力を失った2匹は、大地と海の彼方に姿を消した。それを見届けたレックウザは、通常の姿に戻ると再び天空へと舞い戻った。この光景を目の当たりにした背の高い異国の男はこう言った」

背の高い異国の男ってまさかルネの大木を贈った人物じゃないだろうかと思った。

「"世の揺らぎより生まれしもの、即ちΔ(デルタ)。人の祈りと石の絆にて、世界に生まれし揺らぎを平らかにする"……と。その後、レックウザとその力の源になった七色の石を奉る為、また少しでも天空に住むレックウザに近づく為、流星の民は巨大な搭を建造した。そして自らが体験してきた歴史とレックウザの偉業を後世に伝えようと、その壁面に絵画を書き記した。巨大な搭……歴史を記した壁画……最近どっかでそんな搭を見た気がするよね」

「……」

それは、ここ"空の柱"とわかった。

「……さてと、ついに物語は最終章だよ」

6階に飛ぶと梯子の手前でヒガナさんは天井を見上げていた。

「……いよいよ最終回ね。それから1000年の間、平和な時が続いた。流星の民はこれまで繰り返してきた歴史の流れから再び宇宙より隕石が降り注ぐ事を予言した。次にやってくる隕石は、過去2回よりもさらに巨大で世界そのものを消滅させるほどの規模であると……」

「流星の民はこの巨大隕石の落下を…予言していたなんて」

「うん。星の危機を阻止する為に歴史に裏打ちされた知恵を持つ者達は考えた。隕石の落下より先に救いの神―レックウザを降臨させ、その力で世界を救う計画を―」

その為にカイオーガの復活をさせた。その結果、ホウエンが沈みかけるくらいの災害や都の襲撃…少々やり過ぎていると思った。

「……はいっと、これで私達の…流星の民の物語はおしまい。どうすれば1番多くの幸せを守る事ができるのか考えてきた。力と知恵を持つ者の宿命として……。それを成せなかった者の意志を継ぐ者として…想像力を働かせて……ね」

ヒガナさんは梯子に手をかけて軽々と上っていった。他の階と比べて吹き抜けになっていないから私も梯子を上って上の階を目指した。


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