09
131番水道にある孤島へ降りると空の柱へ続く道の前にミクリさんがいた。
「………………」
「ミクリさん」
「来たね、ジルチ。ごらんの通り、空の柱に続く封印は解除しておいたよ。この中を道なりに進めば空の柱にたどり着けるはずさ」
「ありがとうございます」
「……ただし、この先に進む為には1つ乗り越えてもらわないといけない事があるんだ」
「それは…?」
「私の御師匠様から受け継いだルネの民としての使命―今一度、私とポケモン勝負を行い、この先へ進むに相応しいかどうかを見極めさせてくれ!……どうかな?準備はできているかい?」
「もちろんです!」
私は腰にあるボールに手をかけた。
「では、始めよう……水の巫女。受け継がれし民で1番華麗にポケモンと踊れるであろうその実力…今一度見せてもらう!」
ルネの民、ミクリさんとバトルが始まった。ミクリさんがボールを高く投げると私の後ろにあった海にその姿を現した。
「ホエルオー…!」
空の柱の前にある海が見えなくなるくらいの大きさでホエルオーは潮を吹いた。
「なら、私は…っ!!」
1番のお気に入り、白いボールを後ろへ投げた。中から電撃を散らしながらライボルトが出てきた。
「ライボルト、いくよ!メガシンカッ!!」
薬指にあるメガリングに触れ、左手をライボルトに向けた。2つの石は共鳴し合って光り輝いた。
「ほお…ジルチもメガシンカを使いこなすようになったとは…面白い」
「全力でいきますよ!!ライボルト、10万ボルト!!」
ライボルトがまとった電撃をホエルオーに放った。しかしホエルオーの体力が桁違いにあるのか一撃では倒せなかった。
「なかなか…っ。ホエルオー、じしんっ」
「ライボルト!」
ライボルトは頷いて、ホエルオーが地面を揺らしたのと同じタイミングで高く飛んだ。砕けた岩が脚に当たっていたけど大丈夫みたい。
「かみなり!」
ホエルオーの上に雷雲を作り、ライボルトが吠えるとかみなりが一直線に落ちた。さすがにかみなりまで耐える体力がなかったのかホエルオーは目を回して海面でひっくり返っていた。
そのあとに出てきたドククラゲ、ギャラドスをかみなりで一撃で倒していった。
「以前より…いや、私の想像を越えるぐらい強くなってるようだ」
「シンオウで私も皆も鍛えましたから!」
「実に素晴らしい!共に踊ろうではないか、ルンパッパ!」
「ルンパッパか…ミロカロスの事を考えるとライボルトは残したいから交代しよう!」
ルンパッパは水と草タイプ…炎が効くようになったとはいえ、バクフーンを出すのは危険かなと思っているとリオルが肩から降りた。
『ぼくも…戦うッ!』
「リオル…?」
『相手がどんなに強いってわかってても、全力で立ち向かえって教わった!ぼくもジルチと一緒に戦う!』
リオルから闘志が溢れ出ていた。ライボルトの戦いぶりを見て立ち向かいたくなったのかもしれない。
「わかった。でも無理はしないでね」
『わかった!ぼく、頑張るからっ』
楽しそうに踊るルンパッパの前にリオルが一歩踏み出した。
「随分と闘志を燃やしている…秘めたる思いは、やがて力となる、か。いいだろう、その逞しさを評価して相手をしよう。ルンパッパ、エナジーボール」
「リオル!ブレイズキックで蹴り飛ばしてっ」
『とおぅ!』
自然の力が込められた玉をリオルは炎をまとった足で器用に蹴り飛ばした。そのままルンパッパに向かって2回ほど蹴った。
「なんと美しい炎舞!負けてられないな、ルンパッパ」
『ルンパッ』
「れいとうビーム」
「れいとうパンチ!」
冷気が周りに飛び散り、太陽の光でキラキラと輝いた。シンオウで鍛えた技はルンパッパと渡り合えるもので、激しい攻防戦が続いた。
「ねこだましだ」
ルンパッパがリオルの前に来て大きな音をたてて驚かせた。
『わっ!!』
「っ!」
「小さな戦士よ、これで幕を閉じよう。ねっとう」
ひるんでいるリオルにねっとうを浴びさせて、あまりの熱さに倒れそうになったのを見たミクリさんはルンパッパの勝利を確信をしていた。
「立ち上がって!きしかいせい!!」
「!?」
『うおぉぉおっ!』
リオルは火傷状態にも関わらず、最後の力を込めてルンパッパを殴り込んだ。勢いのあまり2匹は地面に倒れてしまった
『ルッパ……』
『やった、よ……ジルチ。………』
ルンパッパとリオルは倒れたまま動かなくなった。体力のギリギリまで粘って戦ったリオルは本当に頑張ってた。
「リオル、よく頑張ったね。お疲れ様」
「リオルの事、少々侮っていたよ…。ルンパッパを相討ちにするとは」
「リオルの頑張りには私も驚きましたが…勝つのを信じてました」
右手にあるフレンドボールを強く握って、今はゆっくり休んでてと波導で伝えた。残るのは2体、ミロカロスは最後とすれば次のポケモンが何なのか気になった。
「では、次の勝負をしよう。ナマズン!」
「よし!出番だよ、リーフィア!」
『よっしゃあっ』
「ダイゴのボスゴトラと戦った勇ましいリーフィア、か…。存分に舞うといいっ」
「お言葉に甘えさせてもらいます!リーフィア、つるぎのまい!!」
「ナマズン、じしんだ」
舞ったあと、地面が砕けてあちこち足場が悪くなっていった。そんな状態でも気にせずにリーフィアは再び舞った。
「がんせきふうじ」
「タネばくだん!」
飛んでくる岩を次々と爆発させて相殺していった。
「一撃で、倒す!リーフブレードッ!!」
いつもに増して鋭くなった葉っぱを地面を這うナマズンを上から切り裂いていった。
「地面を割ってしまうほどの威力…恐れ入ったよ」
「ありがとうございます」
リーフィアは誇らしげな顔をして私の元へやってきた。
「ありがと、リーフィア」
『どんなもんよっ!ライボルトのアニキと交代やなーっ』
「そうだね」
リーフィアをボールに戻すとライボルトがメガシンカの状態で出てきた。充分休憩したのか表情がスッキリしている。ミクリさんは美しいミロカロスをボールから出していた。
「ライボルト、じゅうでん!」
「ふぶき!」
じゅうでんしているとライボルトの周りが凍りついていった。その氷がライボルトの足元にまで侵攻してきたところで、ライボルトは軽く飛んで地面に向かってかえんほうしゃを放った。
「その判断力と素早さはなかなかなもの…ハイドロポンプ!」
「避けながら詰めよって!」
次から次へと放たれるハイドロポンプを左右に避けていき、ライボルトは至近距離で10万ボルトを放った。
「浴びるとやはり凄まじい…じこさいせいっ」
「ライボルトの10万ボルトを耐えてじこさいせいをするなんて…」
「苦戦しそうかい?」
「いえ、戦い甲斐のある相手で嬉しいですよ…!!回復が間に合わないくらい圧倒的な攻撃力で攻めて攻めて…」
「……」
「絶対に倒しますよ」
このバトルに気持ちが昂っているとミクリさんは目を伏せて小さく微笑んだ。
「全く、初めてジムに来た彼女とそっくりだ。ミロカロス、りゅうのはどう」
「もう1度じゅうでん!」
ミロカロスから放たれた衝撃波を耐えながらライボルトは電撃を散らしながらその身にまとった。
「さぁ、次は10万ボルトを越える電撃です、よっ!かみなり!!」
空の柱周辺に黒い雨雲が集まり、鋭い雷が周りに落ちてきた。そしてライボルトが吠えると一筋のかみなりがミロカロスに命中した。
ミロカロスの周りはかみなりで焼け焦げ、かみなりの威力に耐えきれず地面に倒れた。ライボルトはメガシンカを解いて私の足元に駆け寄った。
「ルネの民として本気を出した私を打ち負かすとは……」
「巫女として本気を出しましたので」
「流石だよ、ジルチ!君は本当に素晴らしいポケモントレーナーだ!君が繰り出してきたポケモンの数々……時には春風のように舞い、あるいは稲妻のように刺す……。そんなポケモン達を軽やかに操る君の姿―この私でさえも惚れ惚れするほどだったよ!」
「あ、ありがとう…ございます」
ミクリさんは両手を上に上げてwonderful!!と叫んだ。
「さあ、先に進みたまえ。そして君が求める真実を掴むんだ。私達ルネの民は空の柱に立ち入る事ができない。ルネに戻り、何かできる事がないか対策を練ってみるよ。今回は君に運命を託して申し訳ないね」
「私だけではないですよ。トクサネでダイゴさん、リシアさんも…いろんな人がこの運命に抗おうと頑張ってます。それでは、行ってきます」
「……頼んだよ!水の巫女、ジルチ!」
ジルチが奥へ進んでいくその後ろ姿を見て、昔に幼い私と御師匠様がルネで会った美しい家族の事を思い出した。
彼女はジルチと同じような雰囲気を持った女性で、あの大木の前に立っていた彼女の…風になびく、美しい海と空の色した髪が印象に残っている。
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