水の都の巫女 | ナノ


07

 都に帰るとレッド達がいなくて、テーブルに古い巻物が置かれていた。紐を解いて読んでみるとレックウザに対する感謝の気持ちを書き記された物だった。

「これは…」

巻物を読んでいると玄関の扉が開いた。

「ジルチ、おかえり!」

「ただいまレッド。それって巫女の衣装と剣だよね?」

「そうだよ。お父さんが着替えていつでも巫女として動けるようにしてと言ってたから持ってきた」

「お父さんは?」

「祭壇にいるよ」

「わかった。着替えたらすぐ祭壇に行くからリオルを預かってて」

リオルをレッドに渡して部屋で巫女の衣装を着替えた。裾にポケナビと傷薬を入れて腰に鞘の紐を結んだ。鞘の紐と同じ材質のボールホルダーがあったからベルトから移し変えた。
部屋を出るとリオルが私の胸元に飛び込んできた。

「どうしたの?」

『……』

「……?」

波導で何か伝えようとして感じ取ると不安と心配が入れ混じった不安定なものだった。

『……』

「リオル、心配しないで。ちゃんとできる事をして、ホウエンを救うから」

『…それだけじゃ、ない』

「え?」

『そんな気がする』

「リオル……」

リオルは何かを察したのか表情が暗い。どうしたものかと思っているとレッドに頭を撫でられた。

「多分リオルはジルチが何か無茶をすると思っているよ」

「んー…」

「ジルチはレックウザが降臨する時の事に集中して。僕からあの人に頼むから」

「え…?」

「え?ワタルに頼むんでしょ?」

「何で、知ってるの?」

「ジルチが悩んでる事は全てお見通し、かな?グリーンには先に伝えといたからすぐ来ると思うよ。ワタルに伝えておく事ある?」

「ワタルさんと四天王の4人はホウエンリーグに向かってほしい、チャンピオン2人の負担を少しでも減らしてくれたら助かりますって伝えて!」

「わかった。ジルチ、無理をしたら…怒るから」

「う…っ、レッドが怒ったら怖いからそんな事しない、よ……?」

「約束」

レッドの顔が急に近づいたと思った時には触れるぐらいのキスをされていた。

「ぁ…うん…約束、だね」

何だか恥ずかしいような嬉しい約束の仕方だけどレッドらしい。さっきまで曇天な気持ちが晴れてきた。

「そばに居たいけどジルチが気にしてる事を解決したいから少しの間離れてるよ。…頑張って」

「ありがと、レッド」

『……よかった』

リオルが小声で安心したように呟いたのを聞いて私も安心した。レッドが使いなれていないポケギアを操作しながらワタルさんに電話をかけているのを見て、私は祭壇へ向かった。
都にいるポケモン達は巨大隕石が降ってくるのを知っているのか少しざわついていた。人とポケモン…全てを守る為に、私は最後まで諦めないと誓った。

「お父さん」

「ジルチ…彼女が流星の民の伝承者だと気づいたんだね」

「流星の滝に行ってわかったよ。メガシンカのルーツや過去に起こった災厄、レックウザの降臨の為にヒガナさんがキーストーンを集めてる事…いろんな話を流星の民から聞いた」

「そっか…。それで、ジルチは伝承者に力を貸すかい?」

「……降臨の為とはいえ、やった事はあまり許されるようなものじゃない。でも…思いは私達と同じだから貸せるところまでは貸すよ。カイオーガの件のような大災害を招こうとしたら止める」

「わかった。僕らも都を含め、守れる場所を守るよ。だから心配しなくていいからジルチはジルチのするべき事をするんだ」

「わかった!」

とりあえずダイゴさん達と合流した方がいいかなと思っていたらちょうど電話がかかってきた。

「もしもし?」

[ジルチちゃん、今から宇宙センターに戻れるかい?]

「大丈夫ですよ」

[…じゃあ…待ってるよ]

「…?」

何だかダイゴさんが疲れているような感じがした。お父さんに宇宙センターへ戻る事を伝えてラティアスと共にトクサネへ向かった。

 宇宙センターの2階へ行くと何かあったのか研究員の人達が慌ただしく動いていた。

「ジルチちゃん……?」

「どうしました?」

「いや、巫女の衣装を着ているから何かするのかと思って…」

「…私ができる事をするまでです。ところでリシアさんは…?」

「リシアはヒガナを追ってアクア団のアジトへ向かったんだ。さっき…ヒガナが再びここに現れて、通信ケーブルを制御する次元転送装置を破壊したんだ」

「何だってっ!?それじゃ…ダイゴさん達の計画は……っ」

「あぁ、隕石をワープさせる計画が実行できなくなったよ。今ボクにできる事は何なのか考えているところさ」

ヒガナさんは確かにダイゴさん達の計画を全面的ではないけど否定していた。だけど計画を無きものにするとは思わなかった。

「……ワープがダメならぶつけて破壊する方法、しかないですね…」

「そうかもしれない……リシアが帰ってくるのを待とう。何かを情報を得てるかもしれない」

「そうですね」

しばらくすると明らかに不機嫌なオーラを漂わせているリシアさんが帰ってきた。

「戻ってきたで。みっともないけど…うちが行ったにも関わらず、何もできへんかった!」

ガンッ!!と壁を殴ってリシアさんは怒りと悔しさに肩を震わせていた。

「リシア…」

「……んで、電話でも言ったけど空の柱に向かうと言っとたで」

「……なるほど、彼女…ヒガナは空の柱と言っていたんだね」

「せやで。どうもジルチちゃんがお気に入りみたいで彼女から伝言を預かってるで」

「伝言、ですか?」

「私の後を追って来てほしいな、やってさ。必要数が集まったんか知らんけどレックウザを呼び寄せる事ができると言ってたし、急いだ方がええと思う」

「古の知恵を継承し、のちの世に伝承する資格を持つ者にしか入れない場所、それが空の柱だ。ルネシティのミクリを覚えているかい?」

「はい」

美しいミロカロスが1番印象のあるルネのジムリーダー。そしてお父さんに舞の唄を託した人物。

「そうか、よかった。ルネのジムリーダー、ミクリなら空の柱の入口にかかる封印を解く事ができる。彼もまた古の知恵を受け継ぎ、伝える人間の1人なんだ」

「初めて知りました…」

「ボクはここに残って博士達と一緒にこれからの対策を練る。彼女……ヒガナを信用する事はできない。ボクらはボクらで隕石をなんとかする方法を考え直すよ。ジルチちゃんが言ってた方法も…1つの手として提案してみる」

「わかりました。お父さん達は都にいると思うので用があったらルネまでお願いします」

「わかった。ヒガナの事、空の柱の事……なんとか頼む。ミクリにはボクから連絡を入れておくからね。ミクリはルネシティの目覚めの祠にいるはずだ」

「目覚めの祠?」

「カイオーガが求めた膨大な自然エネルギーを溜め込んだ祠や。大きな木が目印やからすぐわかると思うで。……助けがいるならすぐに言いや。今のうちができる事なら…やけど」

「わかりました。ルネへ行ってきます!!」

私は鞘を力強く掴み、2人に背を向けた。今、私にできる事…空の柱でヒガナさんに会ってレックウザの降臨を見届ける。何も起こらなかったらレックウザに隕石を破壊してもらって、ヒガナさんが奪ったキーストーンを返却で一件落着だけどそう上手くいくかどうか…わからない。


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