06
私も流星の滝へ行こうと思って外に出た時、空を飛べるポケモンが手持ちにいない事を思い出した。自分で飛んでいってしまえばいいけど、トクサネの人々が外にいるから下手に能力を発動するのは避けたい。休んでいるけどラティアスを呼ぼうと思って笛を吹いたらリシアさんがやって来た。
「めっちゃ綺麗な音やな……。せや、ジルチちゃん!連絡先教えてくれへん?そっちの行動がわかるようにしときたいし、何かあったらうちから連絡したいんやけど」
「いいですよ」
お互いの連絡先を登録してポケットにしまった。私が空を見上げているとリシアさんがボールを片手に一緒に空を見上げた。
「もしかして空飛べるポケモン持ってないん?」
「そうですよ。今までレッドのリザードンに乗って行動してたので…」
「あー…うちのアーケオス貸そっか?」
「大丈夫ですよ。そろそろ来ますので」
「来るって…?」
何が?とリシアさんが言おうとした時、ラティアスがこっちに向かっているのが見えた。この笛の聞こえる範囲がよくわからない。
『お待たせ!』
「休んでる時にごめんね?流星の滝まで飛んでくれる?」
『充分休んだから大丈夫!』
「ありがと」
「お、ラティアスやん。ジルチちゃんの手持ち?」
「んー手持ちではないですね。家族なので」
「……えぇ家族やな。んじゃ、ダイゴの事、頼むでー。ヒガナさんに煽られてむしゃくしゃしてると思うし、向こうで冷静さが欠けてたら容赦なく殴ってええからな」
「さすがに殴れませんよ…」
「大丈夫や、うちが許可する」
リシアさんはニヤリと笑みを浮かべて私の肩を叩いた。
「ま、うちらもやけど頑張りや。そっちが抱えてる問題点でうちらにできる事があるなら言ってな?力を貸すから」
「ありがとうございます!行こう、ラティアス」
『オッケー!』
ラティアスの背中に乗って雲を切るように大空を駆けた。
ヒガナさんを見たお父さんとダイゴさんは何か知ってそうな感じがした。ダイゴさんの反応からしてその答えが流星の滝にあると思った。
ラティアスの案内で流星の滝に着いた。ラティアスと一緒に奥まで進むとダイゴとお婆さんがいた。
「ジルチちゃん。隕石の欠片はもう手に入れたよ。そしてボクの想像通り、いろんな事がわかってきた」
「何がわかったのですか?」
「うん、まずは紹介しよう。こちらのご婦人は流星の民の末裔なんだ」
「流星の民!!」
探そうとしていた流星の民がここにいるとは思わなかった。
「そうですよ。わしは流星の民。レックウザ様がその始まりとされるメガシンカの伝承を語り継ぎ、次の世代に受け継いでいく使命を負った一族の1人じゃ」
レックウザがメガシンカに関係しているを知った時、お父さんが2回目の隕石落下時に人々の祈りによってレックウザの姿が変わったと言ったのを思い出した。
「古の頃よりホウエンには多くの災厄が訪れ、滅亡の危機に晒されてきた……。災厄……それは、彼方より降り注ぐ数多の流星、ゲンシカイキした超古代ポケモン……。そのいずれもから我々をお救いになったのがレックウザ様じゃ。選ばれし伝承者が七色の岩を前に祈りを捧げる……するとレックウザ様の身体は眩い光に包まれて、新たな姿にお変わりになったのじゃ」
七色の岩…恐らくキーストーンの事で、祈りが絆、思いといった気持ちだと思う。その結果、レックウザがメガレックウザになった。私達の計画にはレックウザのメガシンカが成功の鍵になる。
「新たな姿となったレックウザ様のお力は凄まじく、ゲンシカイキした超古代ポケモンさえも圧倒したと言い伝えられておる」
「七色の岩…伝承者の祈り…姿を変えたレックウザ……。なるほど、ボク達の知っているメガシンカの仕組みと似ている……」
「うむ、まさにその通り。"ポケモン"と"力を持った石"、"人々"の結びつき……そうしてポケモンが新たな姿に変わる現象をのちの時代の人間達がメガシンカと名付けたんじゃ」
「メガシンカのメカニズムは人類とレックウザの出会いによって発見されたものだったのか…。…そう、もう1つ気になる事があるんです。先程おっしゃっていた伝承者というのは―」
「この世界に災厄が訪れし時、レックウザ様を呼び寄せる方法と力を備えた者。現在における正統な伝承者の名はヒガナ」
「!?」
ヒガナさんがその伝承者なのがわかって、お父さんはそれに気づいていたのかもしれない。すぐに都へ帰らなきゃと思った。
「今この世界に三度訪れようとしている災厄……。それを阻止する為、既にヒガナは自らの考えで行動をしておる。レックウザ様を呼び寄せる為の準備として、超古代ポケモンを呼び覚ます為の手解きをナントカいう組織に行い、自らはキーストーンを集めて各地を回っておるようじゃの」
「やはり……宇宙センターに現れた彼女は流星の民だったか……。しかし、まさか彼女が超古代ポケモンの復活にまで関わっていたとは……彼らの力を知りながら、異常気象の凄まじさもわかりながらあの状況を作ったというのか……。どれだけの人々やポケモンが命の危険に晒されたと思っているんだ……!」
「ダイゴさん……」
ヒガナさんは私達が知るもっと前から隕石の事で動いていた。こんな大事になる前にもっと早くからダイゴさん達に協力を求めたらよかったのじゃないかと思ってしまう。それとキーストーン強奪事件の犯人がヒガナさんだとわかった。
「隕石から星を守る為なら異常気象による犠牲も仕方ないというのか……!?」
「全てはバランス……そして歴史は繰り返す……。我々一族は過去の災厄を乗り越える中で多くの犠牲を目の当たりにしてきた。より多くの平和が保たれるように最善を尽くしてきた。そうして今、人………ポケモン……自然……皆が生きる世界が保たれている。それに……よくは知らぬが今、おぬし達も同じように何かの犠牲と引き換えに何かを守ろうと考えているのではないのかね?……ヒガナは必ず自らの信念を貫くだろう。それが多くの犠牲を払うとわかっていても……例え犠牲の矛先が自らに向いていたとしても……」
「…………」
「……そうですか……わかりました。いろいろとありがとうございました」
私達とダイゴさんは流星の滝を出て、しばらく黙っていた。ようやく引っかかっていた事がわかって、私達の計画の問題点の1つは解決できそう。だけどそのヒガナさん自身に問題が多少ある…お父さんに相談しようと思った。
ふと、隣にいるダイゴさんを見ると少し落ち着きがないような感じがしたから静電気くらいの電撃をダイゴさんに当てた。
「ッ!!ジルチちゃんっ!?」
「……ダイゴさん、冷静になりましょう?そのままだとリシアさんに殴られますよ?」
「…………すまない」
「ダイゴさんの気持ちはわかりますよ。それにヒガナさんも……それぞれ守るものが一緒でもそれぞれのやり方がありますし理解し合えない事もあります。今は私達ができる事をしましょ?私もレックウザの方法で頑張りますので……」
「…そうだね。ボクもしっかりしないとリシアに怒られそうだ。にしても何だろう……少し胸騒ぎがする……。ボクの勘はよく当たるんだ。ボクはカナズミのデボンに戻っているよ。ジルチちゃんは都に戻るんだっけ?」
「はい。わかった事をお父さんに伝えて、これからどうするか作戦を練ります」
「わかった。また連絡するよ」
ダイゴさんはエアームドに乗ってカナズミへ向かった。
「ラティアス、私達も都へ戻ろう」
『うん!』
『ジルチ…大丈夫?』
「私は大丈夫」
リオルの頭を撫でてからラティアスの背中に飛び乗って、私達は都へ向かった。
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