05
トクサネ宇宙センターに着いて、中へ入ると受付の人が近づいてきた。
「ジルチ様、レッド様、サフィラス様ですね。ツワブキダイゴ様より、ご来訪承っております。どうぞ、こちらへ」
2階へ案内されてフロアを見渡すと様々な機械や窓からロケットが見えた。モニターには巨大隕石の情報が表示されている。落下予定時刻を見ると確かに時間があまりない。
「ソライシ博士、お連れ致しました」
「おお!よく来てくれました!隕石の欠片を持って来てくれたのだね。ありがとう!」
「どういたしまして」
私はソライシ博士に隕石の欠片を手渡した。
「……では、博士。改めて今回の計画についてお聞かせ願えますか?」
「うむ。では、こちらへ来てくれ」
私達5人はコンピュータの前へ来て、モニターに映し出された映像を見た。
「ツワブキ社長からある程度は聞いていると思うが、今回の計画はロケットの中にあるポケモンの生態エネルギーとキーストーンに秘められた人間の生態エネルギーを掛け合わす―つまりメガシンカの時に発生する長大なエネルギーを人工的に作り出す事から始まる」
「…………(人間の生態エネルギーも活用するんだ…)」
「そうして作り出したエネルギーをロケットから宇宙に向けて打ち出し……そこにワープホールを作り出す……!ワープホールを隕石の軌道上に作る事で"ここではないどこか"に隕石をワープさせるのが目的なのだよ。実はこの技術、既に実用化されているある装置の応用になっていてね」
隕石をワープさせるという案はいいと思うけど活用されるエネルギーの事やその"ここではないどこか"が気になった。仮に飛ばした先に別の星とかあればその星が犠牲になる…という事だ。
「何と……そんな事が本当に……。……ちなみに、ワープする先はどこに……?」
ダイゴさんもワープする先が気になったみたいで私が聞きたい質問をしてくれた。
「それなのだがね、定かではないのだ……。ワープホール同士を繋げるデバイス……名付けて"通信ケーブル"次第なんだよ。ただ安心してくれ。少なくとも我々の住む、この星以外である事は理論上保証されている。……しかしね、予想以上に通信ケーブルの制御にエネルギーが必要とわかってね。悪いがもう1つ、隕石の欠片を―」
誰かが階段を駆け上がってきたと思ったらヒガナさん達が来た。
「?」
「へえ!ここがウワサに名高い宇宙センターの中枢かあ!すごいねえ、シガナ?」
『にょにょにょい!』
「ちょっとあなた!勝手に困ります!?」
階段から受付の人が走ってヒガナさん達を追いかけてきた。
「まあまあ、いいじゃない。固い事言いなさんなってっ……ねえ?」
ヒガナさんから物凄い殺気を感じてフロアにいる人達が固まった。ピリピリと伝わってくるプレッシャー…石の洞窟で会った時は全くなかった。
目の前にいる受付の人は顔を青ざめて動けなくなっていた。
「うっ………」
「誰だ……?……タダ者じゃ…ない……!」
「ちょっと、受付の姉ちゃんが可哀想やから物騒なオーラしまってくれへん?」
「……」
ダイゴさんがかなり警戒しているのにリシアさんがしれっとしていた。ただ、いつの間に出したのかわからないけど足元にはブラッキーが構えていた。
いきなり現れたヒガナさん達の様子を見ていたら目が合った。
「やあ、さっき振りだよね。えっと……ジルチだったっけ?うん、確かそうだよ」
「なっ何だ?君はっ!?」
「あたし?あたしはヒガナ。単なる観光客だよ。宇宙に思いを馳せる……ね」
ソライシ博士や他の研究員の人達が突然現れたヒガナさん達に動揺していた。
「なるほどねえ。ここが人類の科学と希望と、血と汗と涙と―……んまあ、いいや。たくさんの結晶ってワケだ」
ヒガナさんは外にあるロケットを見ると目つきが変わった。
「知ってるよ。このロケットが何をエネルギーにして動かされようとしているのか……。人間が考え出した3000年前の忌まわしきテクノロジー……。あなた達はまだ、人類の為にとか世界の為にとか言って、昔々に犯した過ちを繰り返すつもりなんだね」
「昔に犯した過ち…」
ツワブキ社長の言ってた戦争を終わらせた方法…ヒガナさんも知っていた。
「しかも小耳に挟んだ感じだと、今回はさらにトンデモナイ事考えているみたいじゃない」
「っ!……じゃあ君はここで何もせずに隕石が衝突するのを指をくわえて待っていろと言うのかい?」
「あははっ元ポケモンリーグチャンピオンにしては、なかなかどうして単純なお言葉。……それでは、期待を込めて現チャンピオンのお言葉を聞こうかな?」
ヒガナさんはリシアさんの方を見て質問をした。
「うちが現チャンピオンって知ってる事に驚いたけど1つ訂正しいや。ダイゴとうちは2人でチャンピオンや。ヒガナ…さんやっけ?うちも正直なところ、この生態エネルギーを使った計画にはあまり乗り気やない。他に方法があるとしたら…ジルチちゃんの言った方法が1番理想やと思うで。……まぁ、問題点が山のようにあるみたいやけどな」
「ふぅん……?もう1人のチャンピオンよりまともな返答だね。じゃあジルチ。興味深いその方法って何かな?是非、今度じっくり聞かせてよ」
ヒガナさんは私に微笑むとソライシ博士達の方へ向いた。
「あなた達の考えを否定するつもりはないんだ。……ただね、きちんと考えてほしいの。必要な犠牲と不要な犠牲の2つがある事を。……やるせないな。これだけの知恵と技術を持つ人達が集まっているのにさ。0から1を生み出さず、考えなしに過去の過ちを繰り返し、さらには新たな過ちさえも犯そうとしている―想像力が足りないよ」
「………」
その場にいた科学者や博士達は言い返す言葉がなく、ただ黙っていた。肩にいるリオルが周りを見てその感情を波紋で"悔しい"と伝えてきた。
そう、ここにいる人達は…自分達がしている事、しようとしている事をわかっている。……やむを得ないところがあるからヒガナさんの言葉が酷く刺さる。
「……あっ!皆さんでお話の途中だったね。ごめんなさい。それじゃ私達はこの辺でドロンしますよっと。んじゃ行こかシガナ」
『にょにょにょい!』
ゴニョゴニョの元気な返事をしてヒガナさんは私達の前から立ち去った。
「…一体何者なんだ、彼女は……」
「さてな…ただ、何か目的はあるようやな。あと結構情報を持ってるで。うちがホウエンのチャンピオンって知ってる人あんまおらんからな」
「そうだね。あの口ぶり……何かを確信して遂行しようとしているのか……。しかしあの姿、どこかで……。…そういえば博士。さっき彼女が現れる前に何かボク達に伝えようとなさっていませんでしたか?」
「……あ、ああ。うむ、実はね……ワープホールを繋げる為に純度の高い隕石の欠片がもう1つ必要なんだ」
「…では博士。もう1度石の洞窟に向かえば?」
「ダイゴの家に置いてあるうちの隕石じゃあかんの?」
「……いや今回必要な隕石の欠片は流星の滝にしか存在しないとされているんだ」
「何や、それ」
「次は…流星の滝、ですか」
「流星の滝……!……そうか、もしかして何か掴めるやもしれないな……。ボクは先に流星の滝へ向かうよ」
「ダイゴさん、私も行きます」
「じゃあ…僕は都に戻ってるよ。レッド、ちょっと手伝ってくれないか?」
「いいですよ。ジルチ、また後で」
「うん。私も隕石の欠片を見つけた後、都に戻るね」
「準備ができたらキミも追いかけて来てくれ。隕石の欠片以上に何かわかるかもしれない」
「わかりました」
「んじゃ、うちはダイゴの家にある隕石を宇宙センターに移動させとくで。何かあったら使えると思うし…その後リーグに行って皆に伝えて来るわ」
「わかった。頼んだよ」
ダイゴさんとお父さん、レッドは先に宇宙センターを出て、それぞれ目的の場所へ飛んで行くのを窓から見届けた。
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