15
カイオーガの騒動が落ち着いてようやく静かになった。
これまでの出来事でダイゴさんとミクリさんがあまり動じなかった事が気になった。
「サフィラスに合ってから何かが起こるとは思っていたからね。それにポケモンと人の間に産まれた子ならそれぐらい出来るかなっと思っていた」
「私も同意見だ。ただジョウトにいる伝説のポケモンがここにいる事は驚いたがね」
「そうですか…」
「ジルチ」
振り向くとラティアスとお父さんが人の姿になっていた。
「水の都の巫女として儀式を行った事によって、君の中にあった水の民の力が目覚めたみたいだね」
「シズク姉さんの力は失ったんじゃなくてジルチに受け継がれていたんだね…っ。よかった……うっく、よかった……」
「ラティアス……」
「その祭具は元々1本の結晶から出来た剣だったんだ。あの日に折れたみたいでもう元には戻らないと思っていた……。まさかその剣を再生させてしまうなんて驚いたよ。おかげで都が今までにないくらい美しく、力が満ち溢れた」
「杖だと思ってた…。これで都はもう大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫。あとはルネに出入口を繋げるだけだ。ミクリ、湖の中と…ルネジムに繋げていい?」
「一般の人が迷い込まないのであれば」
「その辺りは大丈夫だ。意識して入らない限り通れないようにする。本当は目覚めの祠に繋げたかったけどルネの民は入る事を許されてないからね。さて、湖は湖同士、扉はどの辺りに作ろうかな……」
お父さんが階段から下りてすぐ近くにぎりぎり建物の原型がある所で立ち止まった。
「ここにしよう」
「随分と軽く決めちゃうんだ…」
「建物を建て直すのに時間がかかるし、今は扉さえあればいいんだよ」
お父さんは扉に手を当ててこころのしずくを光らせた。
見た感じじゃ何も変わってないけどお父さんは「これでよし」と言って祭壇へ戻ってきた。
「これで都とルネは繋がった。帰る時はルネを思いながら、来る時は都を思いながら行けばたどり着く」
「助かるよ。…剣になってる水晶はこの辺りに生成されているのかい?」
「まだあるか知らないけどこの祭壇からまっすぐ歩くと広場がある。そのまま行くと戦いの舞台があってその柱周辺に生成されてたよ」
「ちょっと探索していいかい?」
「建物が崩れる以外危険はないと思うからいいよ」
「私もルネに似た白い街並みを見て回るとしよう」
ダイゴさんとミクリさんが祭壇から下りてまっすぐ歩いていったのを見て私も都の探索がしたくなった。
「お父さん!私も都を探索していい?」
「いいよ。瓦礫につまずいて転けないでね?」
「……私そこまで子供じゃないよ?」
「兄さん!あたし、ジルチについて行く!」
「いってらっしゃい。灯りがないから日が沈む前には戻るんだよ」
「「はーい!!」」
私とレッド、ラティアスはダイゴさん達が行った方向へ歩く事にした。
儀式をした後と前じゃ街の雰囲気が変わって廃墟というより神聖な遺跡のような感じになっていた。
ラティアスと旅の事を喋りながら白いレンガの街並みを見て歩いた。
ジルチ達を見送ってから僕は祭壇の後ろにある湖に手を入れた。
「……シズク、聞こえるかい。ジルチが立派に成長して儀式を行った。この通り都は元に戻った。君があの時力がなくなっていたのは子を身に宿していたからだったんだ」
湖は何も応えないけど、どこからか優しい風が吹いた。
「水の民の魂は水に戻る、いつか…また違う形で会えるといいね」
水から手を出すと指先から水玉が落ちて海に繋がる湖に波紋が広がった。
広く、静かに、永遠と。
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