project | ナノ
ちゃぽん。
浴槽に溜めた湯が跳ねて音を立てる。
仄かに香る檜の匂いに人工的な黄緑色の湯。
全身の筋肉が程好く解れる瞬間で気持ち良い。


「謙也ータオル置いとくぞー」
「おー」
「ついでに今から俺も入っからー」
「おー……おおっ?!」


余りの気持ち良さに流しそうになるが、何やら聞き捨てならない単語が飛んできた気がする。
今、俺も入るとか言ってなかっただろうか。


「おーあったけー」
「ぶほあッ!!」
「うおっ、吃驚させんなよ」
「す、すまん……って、ちゃうわ!」


何入って来とんねん!と声を大きく抗議するも不思議そうな顔を返され、どうやら奴にとって大したことではないらしい。
逆に「何怒ってんだ?」なんて検討違いにも程がある。

俺は怒っとるんやなくて…あああもう恥ずかしいっちゅー話や!


「っはー……もうええ」
「? ……あ、背中洗ってもらっても良いか?」
「へいへい……、ぁ」


なまえの要望に応えるべく湯船から立ち上がって漸く現状を脳内が理解した。
目の前になまえが居る。ここは浴室。
つまり、俺もなまえも裸で。


「――――……ッ、!」
「……? 謙也?」
「あああ……っす、すまん! 今、洗うから……!」


かあっと顔が紅潮したようで、触れた頬が熱い。
辛うじて前を向いているなまえにはバレていないから、平静を装って腕を伸ばした。
泡立てたスポンジをその無防備な背中に押し当てて、無駄のない肉付きに喉が鳴る。


「か、ッ痒いとことか、あらへん……?」
「んー……? いや、謙也ちょー上手い……気持ち良ーわ」
「さ……、さよか」


擦る位置が肩甲骨辺りに差し掛かったところで目に留まった白い背に不釣り合いな赤い傷痕。
思い当たる節はある。
というより多分俺が付けた張本人で、只でさえ速い拍動がより一層早鐘を打ち出した。


「……痛そやな」
「ん? あー……確かに痛いかもだけど、謙也が付けたもんだし。ほら! 愛の証、ッあだ!!」
「さっ、さぶいこと言いなや……ッ」


振り返った無駄なドヤ顔からのさっきの発言。
思わず俺と違わず派手な頭をどついてしまった。
それに脳裏に罪悪感が過るもにやにやしたなまえの表情に霧散する。

「はは、照れてるー」
「なっ! 何、あほなこと」
「……んん? 謙也、何か赤くね」
「へあッ!? 突然な、なな何言うて……ひ、?!」


脳天へと突き抜けた刺激に一瞬何が起きたか分からず。
恐る恐る下方を見下ろして、広がっていた光景に下肢が震える。
なまえの骨張った手が緩く立ち上がっていたそれを掴んでいた。


「さーて、洗ってもらったことだし……代わりに俺も洗ってやんよ」
「や……っ、ちょ……! あかん、……ッぁ」


泡立つスポンジをさっさと奪って浮かべたしたり顔は憎らしい程、決まっていて。
明るい浴室内で見たなまえはやはりカッコ良かった。


「ッん、! や、……っ……なまえ、スポンジ……ッあ、……!」
「謙也くん元気だねえ」
「そ、な……っんん! ……、ッ……あ……ぅ、」


みるみるうちに胸辺りが泡塗れになって、洗うというよりは撫でるといった風に弄られる。
しかも時折脇腹を掠めたり、押し潰し擦るように乳首に触れたりしてきて。
更には強く腕を引っ張られたことでなまえの胸にダイブしなまえの太腿を跨ぐ形で収まった。
勿論それだけで留まるはずもなく、するすると背中のラインをなぞる様になまえの手が降りていく。


「どこか痒いとこありますかー」
「うぁ、ッ! ……っそ、こは……ぁッ、……ん!」
「ん? ここ?」
「違っ、あぁあッ……!」


そして意地悪い声色とその手が示す部位に眼を見開いて、発した否定はワンテンポ遅かった。
決して小さいとは言い難いスポンジが強引にふやけた後穴へと押し込まれる。
ぬるりとした泡とざらついたスポンジの表面とが与える内壁への不規則な刺激。
腰に響く感覚に思考が霞み出す。


「あ、っぁ…ふ……っン、は……ッあ…! なまえ、……なまえっ」
「んー?」
「もっ、あか……ッあかん……ぁ、! ……ふ、……ァ」


中をぐりぐりと押し広げるスポンジがある一点を突き上げて、肩に添えていた指に力が籠った。
高く上擦る声に気を良くしたのかなまえは執拗にそこを狙ってくる。
確かにそのポイントは気持ち良いのだけれど。
気付けばもっと奥が疼いて仕方ない。




「……っ……なまえ、……ッあ、も……なまえの欲し……ァッ!」




ふわふわとした思考で強請ると、まるでその言葉を待っていたかのようにふっとなまえは笑った。
ずるっとスポンジを抜き去られて走った快感と喪失感。
唐突に空いた空間を埋めようと自分でも分かるぐらい瞬く間に内壁が収縮し出して、恥ずかしい。
だけれど、早く。早く。一分一秒でも惜しい。


「ぅ、ッ……ん……、早よぉ……っ」
「はいはい」
「、! あ、ッふ……ぁ、……っ、んぁあ!」
「……っすげ、……謙也ん中、あつ……!」


先端部分が入口に添えられた、と感じた瞬間にずんと勢いよくなまえのが入ってきた。
一気に挿入を果たしたそれは熱く張り詰めていて、気持ち良い。
吐息を荒くさせながらなまえはゆっくりと腰を突き上げてくる。


「ッひぁ、……くっ、あ……ッ、ァ……! ふ、……ッン」


初めはゆっくりだった動きも次第に速さを増していって、位置の不安定さに自然ときつくなる中。
慌ててしがみ付こうと手を動かすが空を掻いてしまう。

不味い。どうしたら。

目の前には凛々しいなまえの身体しかない。
傷付けないよう掴まろうにも泡で手が滑ってしまい、結局その背に爪を立てた。


「……や、あっあ、なまえ……ッ落ち、て、ぁっ、まう……! っ、あ……」
「ッ、大丈夫大丈夫……! そのまま、で……っく、」
「あ、あッ……、……ひ、ぅ……も、出るっ、で、るッ……! ッふ、あぁあ!」


達する直前に抱えられた太腿がまたしても泡で滑って、事故的に奥を深く穿つ。
結果としてはそれを契機に俺は射精をしなまえも釣られて中に吐き出した。
じんわりと腹の中に満たされる温かく広がる熱に頬が緩む。
この時が一番心地良い。

汗で張り付いた髪を払って触れるだけのキスをしたなまえの頬は赤く。
どこか扇情的なその表情にどきっとしたのは俺だけの秘密や。




カルーアミルクに浮かぶ
-まどろむ甘さ-



(うあー……あーつーいー……)
(……何で風呂入ってへんのに逆上せてんねん)
(知るかあほー……あー)


×
- ナノ -