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「……ホンマにええんやな?」
「は、はい……大丈夫っす!」


そう声高らかに言われた。
シングルベッドの上。正座する男が二人。
奇妙極まりない光景である。

しかも、お願いしますと頼んだ張本人はガチガチに固まっている。
手を近付けると肩が跳ね手を退けば小さく息を吐く。
右往左往している視線は辺りをさ迷い、けれど一切目線は上げない。


「切原、来ぃや」
「……、っす……!」


崩した足の間を指差し腕を広げれば怖ず怖ずと従って。
先ずは座位のまま。強張っている背を叩く。
そうすれば切原の両腕が俺の背に回ってきて、それは少し緊張が和らいだ証拠。


「切原」
「なんっ、ん! ……ぅ……、」


その瞬間を見逃さず触れるだけの軽いものを繰り返して、目蓋が閉じたら徐々に深く。
キスに意識がいっている間にゆっくりと身体を傾けて、ベッドに押し倒した。
切原の顔の横に手を付く形を取って見下ろせば頬を赤く染め潤んだ瞳とご対面。
キスの余韻から抜け出したのか、ぼんやりとして定まっていなかった焦点が俺を捉えて。


「っ……ぅ……、ぁ……!」


狼狽えた双眸を笑顔で見つめ返しながら手を服の中に滑り込ませばびくっと跳ねて。
切原の手がシーツを握り込んだ。
その仕草の可愛さに目を細め思わず唇を塞いで、切原も切原で嬉しそうに舌を絡めてくる。
ああもう、こいつは。


「……っふ、ぁ……んん……」


深く長いキスに身体が弛緩し出し、その隙に手早く服を脱がしにかかった。
存外抵抗はない。ただ、身動ぐだけで。
酸欠一歩手前で唇を解放してやれば唾液が糸を引いて、でもぷつりと切れて顎を伝う。


「っん……みょうじせん、ぱい……せんぱッ……っ、……ぁ!」


露になる素肌に堪らず、切原の胸をまさぐる。
上擦った自身の声に泣きそうに表情を崩して。
ぶるりと震えた身体。
俺よりもおよそ一回り小さいこの子は筋肉質なのに華奢に見えた。


「ン、っ……ゃ、ッせんぱ……! ……ぅ……」
「なん?」
「……ッあ、! や、こ……わっ……ッ怖い……ぁ!」
「切原、安心しぃや。大丈夫やから」
「っひ、! ……ぅ、ッ……あ、あっ……」


初めてだからゆっくりやらなければいけないのだけれど。
その割に良い反応を示すから、ついつい手がいうことを利かない。
今も右手が切原の性器を鷲掴んで。

ああほら。萎縮している。

最も萎縮しているのは意識だけで。
シーツを握り締めていた両手が頼り無さ気に俺の左手を探り握って、耐えていた。


「イってええよ」
「え、? ふぁ、ぁ……んんっ、ひ、うぁ、ッ――……!」


袋と裏筋とを揉み撫でて、仕上げと言わんばかりに先端を引っ掻く。
そうすればふるふるとしていた中心は呆気なく熱を俺の掌に吐き出した。熱い。
肩全体で息をする切原。
ぼんやりとしている間にどろっとしたそれを指に纏わりつかせ、目的の部位へと目指した。


「――……っ?! ッな、何……ぁ!」
「一応この先てここ使うねん」
「ぅ、あ……っ」


粘っこいそれを塗りたくる様に指を動かして、一本挿入を果たす。
途端に強張る身体。
ぎゅうぎゅうと絡み付いてくる内壁。


「ここを慣らして」
「……っく……ぁ、……あ……っふ」
「俺のを入れんねや」
「ッ……――!」


俺の言葉に想像したのかきゅっと一瞬指を締め付けて、頬は真っ赤だ。
でも次の瞬間には自分が何を想像したのかを悟ったらしく両腕で顔を覆ってしまった。
だけれど、赤く染んだ顔までは隠しきれていない。
いじらしいと思う。


「かわええ奴……」
「、! や……動かさないで、くださッ……ぁ、ぅ」
「違和感は少しの間だけや」
「……ぅ、っく……!」
「直ぐ良うなる」


柔らかい内壁を傷付けないよう慎重にある一点を探し動く。
それを見付ければもっと切原は苦しくなくなるはずなのだ。
異物感を必死に遣り過ごそうとして、切原の性器が萎え始めた頃。



「……っく……――ひ、ッぅあ?!」



ビクッ、と跳ねた身体に両腕は空をさ迷い目を白黒させている切原。
切原は自身の身に起きた変化がよく分からないのか不安気にこちらを見てくる。
それを一笑で返し、今度は二本で中を弄ることにした。


「あ、あッ……そこ、ッゃ……せんぱい……! や、ぁっ……」
「ここ、前立腺言うて男が後ろで感じる場所なんやて」
「ひッ、あ! ……っふぁ……あ、ぁ……あ、」
「さて、と。もうええやろ」


ずる。中を蹂躙していた指を抜き去って切原が大きく息を吐いた。
少し物足りなさそうな表情に苦笑いを浮かべ、ぐいっと準備万端な俺のを押し付ける。
その感触にこの後の展開が読めたのだろう。

ごくり、涎を呑み込んで潤む瞳。


「っ! ……ッ……、! ……!」
「……ッきつ……、……!」


ポタ、汗が滴る。
半分程挿し込んだところで切原の表情が険しいことに気付いた。
相当な負荷がかかっている。

見下ろした切原のそれは力を無くしていて、俺は中途半端だった挿入を断念することにした。
無くなった圧迫感に怖々と目蓋を開けた切原の頭を撫でて「今日は止めや」そう告げ抱き起こした。


「……っえ……? みょうじ先、輩……なんで……俺ならっ、だいじょ」
「痛かってんやろ」
「、でも……!」
「挿れるだけが行為やない」


手貸しや、出来るだけ優しい声音で切原を窘める。
瞳いっぱいに涙を湛えながらも従順に差し出された両手に俺の両手を重ね合わせた。
そしておもむろに俺と切原の性器を握り込んで、伝う滴。


「ッあ、……ん、っはあ……ぁ」
「……っん……こっちの方が、気持ちええやろ……ッ」
「は、い……っ! 、ぅぁッ……んん、ふぁ、ぁ……や、せんぱ……も、!」
「ん……俺も、そろそろ……ッヤバ……!」
「ひぅ、ッ……あ、あ……――っああ!」


達する瞬間にぎゅっと目を瞑った切原を見つめ、二人揃って熱い掌を真白に染める。
そして疲労のあまりくたりと身を預けてきた切原を抱き締めた。




感傷は緩衝により揺らぐ
-きっとこれは内の問題-



(俺らは俺らのペースで、な)
(うっ……はい……)


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