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綺麗だね。可愛い。男にしておくのは勿体無いな。顔しか見ない女なんか止めて、俺にしない?

随分軽々しくも浅い言葉の羅列だと思う。
転入早々「俺、ゲイなんで。宜しく」そう爆弾発言をかましたみょうじ。
奴は瞬く間にその名を学校中に知らしめ、人気者にまで成り上がった。
人柄は良い。ただ、どこまでが本気かは判らない。


「白石、髪に塵が付いてる」
「え、嘘……!」
「取れた。にしても、ほんと白石の髪さらさらだよなー」
「そ、か……?」
「うん。手入れが行き届いてるって感じ」


柔らかくて、俺この髪好きだな。
何てことはない。ただの賞賛の言葉だ。
そうやって持ち上げて、あわよくば恋人にでもしようと目論んでいる。
でも、俺はそんな手には乗らない。乗って堪るものか。


「……いつまで触っとるん」
「んー……俺が堪能するまで?」
「阿呆か。部活始まってまうわ」
「バレたー」


ああ気に食わない。
誰にでも向けるような張り付けた笑いなんて。
対象範囲内皆に向けるような甘い声音だって。

全部作り物で紛い物のくせに。




「なん、また来とったんかい」
「救世主!」
「……見せへんぞ」
「ええ! 一氏のいけずー!」
「少しは自分やれや。毎回見せると思うなや」
「今回の範囲苦手なんだって……っこのとーり」




楽しそうに笑った。ほら、言わんこっちゃない。
そのくせ、仏頂面しているユウジも満更ではなさそうで。
結局、事はみょうじの望むように転がる。
ああ気に食わない。羨ましいなんて。


「、みょうじーッ!!」
「どうした? 忍足」
「聞いてやぁ! 世界史の山田がな、めっちゃ鬼やねん!」
「そういや、お前呼び出しされてたな」


開口一番みょうじに飛び込んでいった謙也はいつも通りだ。
極々自然に抱き着いて意識を一気に持っていく。
愚痴を聞いて欲しいなんてただの口実だろう。バレてんで。
締まりのない顔はお互い様。
見ていてとても腹立たしかった。


「こないぎょーさん課題出されても終わらへんてーっ!」
「はは、手伝おうか?」
「ホンマ「甘やかしたらいけませんよ、みょうじさん」


輝いた表情が一瞬にして驚きと悔しげなものに変わる。
遮ったのは財前。あいつは対照的に不敵に笑っていた。
きっと部室の外でタイミングを見計らっていたのだろう。
財前はそういう奴だ。
その滲ませた作為をみょうじは大層気に入っていて、もう既に意識はそっちへ向いていた。


「財前は手厳しいな」
「ホンマのことを言うたったまでです。互いのためにならんし、つかみょうじさんやてそれぐらい解っとるやろ」
「まあ、それは正論だけどねぇ……つい、甘やかしたくなるんだよ」


懐いてくる犬や気紛れな猫とか特に、ね。

くるり、と全員を見渡すと小さく含み笑いを漏らすみょうじ。
悔しい程に整った、奴らしい、俺の好きな顔だった。




flirtation
-仮性恋愛-



(奴は誰も好いてなどいない)


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