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「あいつらの世話しとくから、さ……シャワー浴びて来いよ」
「……おう」


家に着いての第一声がそれで、なまえはそのまま居間へと向かう。
恐らく気を遣ったのだろう。
それか、自分を責めているのかもしれない。彼は何も悪くないというのに。
なまえに言われた通り真っ直ぐ脱衣場に向かい、役立たずとなった服を脱いだ。

ぞわり。また、悪寒が走る。


「――――、ッ……!」


慌てて浴室に飛び込みシャワーのノズルを捻った。
頭から降ってきた水滴は温かったが、今はどうでも良い。
鏡に写る自身の身体がとにかく汚く見えて仕方がないのだ。
石鹸とタオルを使って拭う。でも、拭っても拭っても、あの気持ち悪い感覚は消えてくれなくて。

嫌だ。嫌だ。気持ち悪い。

微温湯に当たりながら、鼻の奥がつんと痛くなる。
視界が歪んで、喉が引き攣って溢れた滴が混ざりあった。


「……ッ、く……ぅっ」
「ブン太?」
「! っ、うぅ……なまえッ、ひ……っく、なまえ、!」
「……ブン太、入るぞ」


一言声をかけてから浴室に入って来たなまえは少なからず動揺した。
涙顔も、擦り過ぎて赤くなった身体も、震える声も全てが痛々しく映って。
思わず纏った衣服が濡れるのも厭わずに、ブン太を抱き締めた。未だに身体は震えている。


「ッ……な、ぁ……なまえ……」
「うん?」
「消え、ね、んだ……忘れ、させてッ、……――なまえ……ッ!」
「……嫌になったら、直ぐに言うんだぞ」


小さく頷いたのを確認してから、首から鎖骨へ。鎖骨から胸元へ。
慈しむようにそっと、なまえは唇を落としていく。
ブン太の手を確りと握りながら、戦慄く声に応えるように。
利用していることも利用されていることも暗黙の内に解っている。
それでもブン太はなまえを縋らずにはいられなかったし、彼もまた撥ね除けることは出来なかった。


「っん、……ぁ……、ッ……」
「……ん……」
「は、……ッぅ……あ、っ」


濡れて張り付く衣服が疎ましくはあったが、今はそこに意識を割いている暇はない。
早く、早くブン太の恐怖を取り除かなければ。
それだけがなまえの脳内を占めていた。
赤くなった身体をこれ以上傷付けないように、石鹸を撫でつける。そして洗い流す。
その行為を何度も繰り返すうちに互いの息が少し速くなって、熱を孕み潤んだ瞳がなまえを見下ろした。


「なまえ……ぅッ……嫌……な、っ……嫌わ、なッ、でぇ……!」
「大丈夫、嫌わねぇよ」
「っだ、て……俺、汚いッ……ぅ、っく……」
「ブン太は汚くなんかない。いつも傍に居た俺が言うんだから間違いねぇって」
「――……ッなら、証明、してくれ……っ、」


慄く唇はブン太の心とは裏腹に酷く扇情的で、赤く熟れている。
どう証明するかは詳しく言わなかったが、言わずとも伝わっていた。



***





「っあ、……んッん……は、あっ……」


下半身への直接的な愛撫は瞬く間にブン太の思考を鈍らせる。
自身の口から溢れる甘い声が恥ずかしいと思う前に、他でもない彼に触れられて嬉しい。
そう鈍った脳内は弾きだして――ああ、やっぱ、こいつが好きだ――そう再認識する。
次第に力が抜けていくブン太の身体を支える、逞しい譜宮に眩暈さえ感じられた。


「っは……ブン太……っ大丈夫か?」
「う、んッ……あ、っく、なまえ……ッん、ぅ、俺っ……嬉し、ぁっ」
「……そ、か」


今の表情に先程までの感情は見受けられず、譜宮はそっと心の中で胸を撫で下ろした。
これ以上負担をかけさせるわけにはいかない。
と、ブン太の身体を抱え直し、上下に擦る手付きを速める。
速めたことによる刺激に合わせ、首に回した腕に段々と力と震えが増して。




「っも、ぁ、あ……出る、ッ、で、る、……〜〜っああ、ぁ、っぁ……!」




数回に分けて弾けた熱と快感。
それに、ぶるり、と身体を震わせるとブン太は眠る様に気絶し、なまえは湯気曇る中彼をきつく抱き締めた。




もうしん的な関係
-それを、あい、と呼ぶのでしょうか-



(ブン太は俺が守る)
(握った拳は彼の与り知らぬところで、ふるわれる)


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