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不思議な夢を見たんだ、不意に幸村が言葉を発した。
それは全くと言ってよいほど前後の脈絡がなく、みょうじは一瞬何の話題を振られたのか理解が追い付かなかったのだが。
直ぐにそれが初夢を指しているのに気付いた。
へえ、どんな?そう返したみょうじの内心は穏やかではない。
こういう切り出し方をする幸村は大抵、やっかいなのである。

「みょうじが笑っていてね、俺も隣で笑っているんだ」
「おう」
「でもね、手を繋ごうとしたら擦り抜けてしまった」
「……おう」

何とも答え難い。続きはどんな内容なのか、冷や汗が流れる。
いっそのこと初夢が一富士二鷹三茄子のような、簡単なやつであったならば話は早いのに。そうみょうじは思わずにはいられない。
しかしながら、幸村は確信犯だ。
みょうじを困らせてしまうことを承知の上で、この話を振った。
安堵が欲しいのである。彼から、確実なものを。

「今の君には触れられるかな」
「俺は本物だからな、触れられる」
「夢のように消えてしまわないかい?」

声が震えてしまないよう隠すのに、幸村は必死だった。
相手のことを確認するような言葉を口にするのは苦手な部類で。
彼にとって、酷く怖いこと。

「俺は怖いんだ」

みょうじが居なくなってしまうことが。
やっとの思いで吐き出した言葉は最後まで音を成すことはなかった。
苦い表情をしたみょうじに抱きすくめられたから。
ほら、触れた――その一言にどれだけ幸村が救われたかなど、みょうじの預かり知らぬ話だった。



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