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遅くなってしまったという自覚はあった。
言い訳をするわけではないが、仕事が長引いたのが原因でこれは紛れも無い事実である。
夕食は済ませていることだろう。もう直ぐ年が明けてしまう。
だから少し、本当に少しだけ罪悪感を覚えながら呼び鈴を押す。

「遅いわ! 待ちくたびれてもう飲み始めてんでえ!」

するとどうだろう。ひょっこり出ていたのは顔を赤くした締まりないもので、一瞬で全てを覚った。こいつ、酒飲んでやがる。

「……見りゃ判るわアホ。何勝手におっぱじめとんねん」
「自分が遅いんが悪いんやろお、あ、つまみ買うてきた?」
「はあ? 俺遅うなるから好きなもん買うとけ言うたやろ」

何も買うてへんわ、溜め息と一緒にオサムを押し退け家の中へ。
急に疲れが増した感じだった。
後ろからやいのやいの言う文句を右から左へ聞き流して、家の中を一通り確認して、はたと気付く。俺の分の酒やつまみがない。

「……なあオサム、まさかとは思うんやけど、俺の分は」
「はっはー! 残念やったなあ、そのまさかや!なまえがあまりにも遅かったさかいみんな食べてもおたわあ!」
「こ、っの酔っ払いがあああ! てめ、年の瀬まできっちりかっきり働いとった人間に何してくれとんじゃああ!」
「遅うに来る自分が悪いんやっ! 俺は悪うな『HAPPY NEW YEARRRR!』

「「……あ、…」」

ヒートアップしそうな空気と口論をぶった切る掛け声。
テレビの向こう側では『新年明けましておめでとうございます!』と声高らかに言い合う光景が繰り広げられている。
それに勢いをなくした俺らは「……コンビニに行くか」「せやな」と、新年早々コンビニのお世話になるのであった。



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