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冬休み。
恋人であるユウジはいつものように俺の部屋に来ていた。
どっとテレビ越しに広がるスタジオが笑いに包まれる。
されど、テレビのこちら側は互いが身じろいだために発せられた衣擦れの音がしただけ。
笑いの"わ"の字もない。


「……イマイチやな」
「うーん……ユウくんの方が面白いや」


つまらなさそうに唇を尖らせてこたつに俯せるユウジ。
そのこたつは親戚から譲ってもらったもので、そこに二人揃って脚を突っ込んでいる。
お笑い番組チェックをかかさないユウジのためにテレビの真ん前という特等席を譲り、俺はその90゜横を陣取った。

真剣な表情でネタを吟味しているユウジを見るのが俺の密かな楽しみだ。
勿論ユウジだけでなく番組の内容も見てはいる。
けれど、今回の番組は不発。
気怠げにチャンネルを回すユウジを横目に俺は机上に積み上げられた蜜柑に手を伸ばした。


「あかん、おもんない」
「だねえ」
「あ、蜜柑俺にもくれや」
「ういー」


爪先を染めた橙色。
柑橘系特有の甘酸っぱい香りが鼻腔を刺激して、半分にした蜜柑から二房分けとった。
当然分けた二房の蜜柑はユウジの口元へ。
面白くないと言いながらも視線はテレビに向けたままで。
突き出された唇に押し付けてその存在を知らせる。


「んー……ん、む」
「! ……っ……」


ぱく、なんて効果音が付きそうな感じで蜜柑を頬張った。
俺の指ごと。
生暖かい口内だけでも色々とヤバいのにあろうことか、ユウジは爪先へと吸い付いてから離した。
驚きに声を失っている間にチャンネルはまた変わっている。

素知らぬ顔のユウジ。
もそり、と動いたと思ったら今度は自分で蜜柑の皮を剥き出す。
そして俺と同じように半分に分けて二房摘まみ。


「ん」


こちらを見ずに差し出した。
画面の向こう側は相変わらず騒がしい。
今繰り広げられているのは芸人による物真似カラオケ大会。

これもやっぱり、ユウジの方が上手い。

なんてぼんやり考えていたら「早よ食えや」と軽く怒鳴られてしまった。
怒られたことというよりも、依然として向けてこない視線に少しムッとしたから。


「――ッ?! ……っなまえ!」
「んぁに(なに)」


ちょっとした仕返しにユウジの指を蜜柑ごと食べてやった。


「ぅ、……食わえたまま、話すなや……っ」
「ゆうふんがわうい(ユウくんが悪い)」
「意味、分からん……ッ、も……ええ加減にせえ!!」
「ん゛ッ、ぁ……あーあ……」


歯を立てないようにやんわり食んだり、皮膚の上や爪の間を舌でなぞったりと遊んでるとまた怒鳴られてしまった。
更には物凄い勢いで俺に食まれた指を抜きティッシュで拭われる。

ちょっと傷付くんだけど。

落胆を滲ませて溢した溜め息。
それに反応してか「おま、な、に…すんねん…!」なんて語調荒く睨まれた。
その顔は真っ赤。
そんな顔に怒られても正直言って全く怖くない。むしろ。


「誘ってる?」
「はあッ?! おま、アホちゃう……っ! ……、く……ちょ、」
「顔真っ赤、ここ半勃ち」
「ッ!! あ……マジ、やめ……っ、は……」


ゆったりとこたつの中で脚を伸ばし寛いでいたユウジの股に足を割り入れて、足全体で僅かに硬くなっているそこをぐっと押してみた。
そうすれば、案の定びくびくと震え出す性器に心なしか服が湿り気を帯びてる気がする。
でも、押すだけでは芸がない。
と親指人差し指で挟みながら裏筋を擦り上げ、もう一方の足で袋も一緒につつく。

すると上がったのは押し殺した嬌声に交じる弱々しい拒絶の言葉。
嫌ならこたつから出るなりなんなりすれば良いのに。
口だけの拒絶に本気の素振りはなく、前髪から覗く瞳が熱に揺れていた。
目って本当正直だよね。


「あはは、ユウくんってば天の邪鬼ー」
「こッの死なす、ぁ! ……ひッ、ぅぁ……止めっ、や……!」
「本当に? 止めて良いの? こここんなに苦しそうなのに?」
「あ、ゃッ……ぅっ……、え」


俺から与えられる刺激に身を任せるべく、強く瞑られた瞼が大きく開かさる。
その眼は驚愕一色。
本当に俺が止めるとは思っていなかったらしい。
まあ、普段だったらこのまま雪崩れ込むように手を出すし。

でもたまには押すだけでなく引くことも必要だと思う。
その方が楽しいし。俺が。


「な、に……」
「えー? ユウくんの言う通りにしただけだよ? 俺ちょーやさしー」
「――ッく、ほんま……っ性格、悪ッ……!」


ギッとつり目を更に鋭くさせたユウジは観念したのか。
こたつの上に投げ出してあった俺の手をぎゅっと握り締めて、唇を震わせた。
朱に染んだ頬が可愛い。



「なまえッ……イきた、い……っん、イかせてや……!」



熱い。握られた手も向けられた眼差しも。


「……良いよ」
「ッあ、ちょ……待っ、なまえ……! 服、ぁッ、んん」
「泊まってけばいいじゃん? それより、こっちに集中してよ」
「や、あかッ……ッはあ、んあ、あぁッ……」


さっきの指使いを再開させながら扱って、今度は先端も弄ることにする。
少し痛いかなと思う力加減で先端を足の指全体で握り込む度にびくっと跳ねる下半身。
それに呼応するように力が込められる指。


「んッ、ふ、あッぁ……!」


いつの間にか真っ直ぐ伸ばしていたユウジの脚は大きく開かれていて。
俺の足に擦り付けるように揺らめいていた。
焦点が定まってない赤い目。
頬をぺたりとこたつにくっ付けて荒い呼吸を繰り返し、吐き出された吐息が黒いこたつの表面を白く湿らす。
そろそろ限界かもしれない。


「ユウジ」
「ぁ、ッふ……なん、や……っん、ぅあ」


つーっと裏筋を撫でながら舌先でユウジの手の甲を同様に撫でる。
止める前よりは激しいけど、それでも単調な動きばっかできっと物足りないんだろう。
そんな期待を込めた目で見つめないで欲しいなあ。


「イかせてあげる」
「ぇ、ッあ! ゃッ、いきな、……りッはあ、あ、ぁぁッ……も、あか!」
「イきなよ、ユウジ」
「っ、! ふ、あッあ……は、ぁあッ!」


一際大きく啼いたユウジは小刻みに身体を震わせながら、肩全体で呼吸をしている。
どっ、と空気を読まず色めき立つテレビ画面は実に場違い。
じわり。
足の裏に広がる感触に、またユウジに怒られるんだろうななんて漠然と思った。




touch up
-打てば響く-



(ほんッまに何やねん! って、おま何近付いとんのや……!)
(お叱りは後で聞きますんで……イタダキマス☆)
(はッ?! ちょ、まだ無理ッ……ぁ、ああ……!)


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