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「好きだ」




一緒に弁当を食べていたお昼時。
ご飯を美味しそうに食べていたみょうじに告げた。
突然の告白に彼は一瞬ぱちくりと目を瞬かせたが、直ぐにいつもと変わらぬ笑みを浮かべる。
そう。いつものように。


「僕も好きだよ」
「ほ、ほんとっ!?」
「うん、太郎と同じくらい!」


ぐさり。今、彼の言葉が物凄い勢いで心に突き刺さった。
俺の好きな明るい笑顔で返された言葉に、口元が引き攣る。
太郎というのは彼の愛犬で、彼は無類の犬好き。周知の事実だ。
太郎命というか親馬鹿というか。

何はともあれ、そんなみょうじの愛犬と同等ということは相当な高位置に間違いはない。
だけれども、納得がいくかと問われればそれはまた別問題。


「……ありがとう」


こうして、俺の一世一代の告白は彼の友愛精神に無残にも打ち砕かれたのであった。
目下の最大の敵はみょうじの愛犬・太郎である。



***





「みょうじ! 今度の日曜日に遊ばないか?」
「良いよ。あ、でも太郎のブラッシングと散歩の後でも大丈夫かな」
「っ俺も、やってみたいな」



「みょうじ! 駅前に新しく店が出来たんだけど、放課後行ってみないか?」
「あ、じゃあその横のペットショップも寄って良い? エサ丁度切らしてて」
「(くっ……!) 持って帰るの手伝うよ」



「幸村、今度いつ暇かな」
「! 明後日の午後なら空いてるけど、」
「僕ん家来ない?」
「ッ行k「何か太郎が幸村のこと気に入ったみたいでさ」


遊んであげて欲しいんだ。ああ、笑顔が眩しいよ。
わざとやっているのでは、と疑いたくなる程ことごとく躱される。
又は、別な方向に持っていかれる日々が続いた。
その度に俺の心は抉られていくのだが、ここで諦めるわけにはいかない。

こういう風にふわふわしたみょうじが俺は好きなのだ。
彼を射止めるには、先ず憎き愛犬から手懐ける必要がある。

そう意気込んで、当日。思いも寄らぬことが起きた。


「……え、?」
「ごめんっ、直ぐ買ってくるから……!」
「う、うん。太郎は任せて……」


今朝方、太郎の首輪が壊れたらしい。
今日はまだ散歩にも行ってないらしく、留守番を任された。
信用されているのは素直に嬉しいのだけれど。やっぱりまだ太郎優先か。
はっはっはっ、吐息荒く床にお座りしている太郎。
そのお澄まししている奴にずいっと顔を近付けて本題に入る。


「お前、わざと噛み切っただろ」
「ワンッ!」
「みょうじは渡さないって? ……良い度胸じゃないか」


俺の言葉に太郎は鼻で笑い(少なくとも俺にはそう見えた)。
やれるならやってみろ、と言わんばかりのドヤ顔で俺を見上げている。
良いだろう。望むところだ。




宣戦布告
-相手は強敵、不足なし-



(絶対、負けない……!)


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