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にじてぃ、にじららん! そう語調荒く声を上げた凛に俺の肩はびくっと跳ねた。
また何かやらかしてしまっただろうか。

至極情けないことだとは思うが、どうにも凛の望むことが判らない。
勿論、男である俺の告白をわざわざ了承してくれたのだから、好き同士であるのは判る。
けれどそこまでであった。俺はエスパーなんて持ち合わせてなどいない。

本音を言えば現段階以上に一緒に居たいしそれなりのこともしたい。手を出したいのも山々である。
しかし、どの程度手を出して良いものか。いつも悩んで、結局は諦めてしまう。
嫌われるのだけは是が否にでも避けたいのだ。
そうすれば必然的に回数は減って、最後にしたのはいつだったか。


「ど、どぅがししゃんよー……?」
「なまえさん……いくら奥手あんくとぅって、くれーただのヘタレさー!」
「ヘタ、え……? は?」
「……ああああもう!」


焦れったい、とでも言うかのように眉間に皺を寄せて。
凛は何か思案する風に頭を抱えていた。
そんな表情も可愛い、なんて場違いなのは重々承知だが思わずにはいられない。
けれど、他所事を考えている余裕など俺にはなかったのだと直ぐに思い知らされる。


「なまえさんがわっさんやっし!」
「へ、ッんん――?!」
「っん……、……っ……は」


久々の休日を俺の家でのんびり過ごしていた昼下がり。
長閑外の空気とは裏腹に、絡む舌と水音は場違いだった。
そしてそのままあっさりと俺は押し倒されたのである。
非常に美味しい状況だ。いや、違う。そんなこと言っている場合ではない。
もう訳が解らなくて心の中で半泣きになりながら呼びかけた俺の声は、とても細々としたものだった。


「っり、りり凛ちゃん……?」
「ぬーやが」
「くれー……どういうことさー……」
「……わんにも我慢ぬ限界さあるっつーの!」


半ば自棄糞気味に言い放った凛の顔付きは、怒っているような泣きそうな複雑なもので。
心臓を鷲掴みにされたみたいな錯覚を受けた。
俺は一体凛に何の我慢を強いていたのだろうか。

遂に大混乱を起こした脳内を尻目に、凛は追い剥ぎ宛らの勢いで服を剥いでいく。
押し倒されたこの状況で下手に抵抗すると怪我をさせてしまうかもしれない。
一瞬その心配が脳裏を過ぎって、制止させるべく上げた腕は意味を成さなかった。


「――――っん、?! ちょ、凛ッ!!」
「っは……ん……、っん゛ん………ッ、ぅ……」
「ッさんけー……! 凛、っ……く、……」


その一瞬の隙に凛が俺のそれを銜え、びりっと腰に走る刺激。
漏れた俺の声に気を良くしたのか嬉しそうに目を細めた。
そういう仕種にはきゅんとしたのだが、それも束の間。

嬉々として口淫を進めていく凛に快感とは別に冷や汗が背中を流れる。
なぞるように上下に動く舌と啜るように先端で窄められた口。
しかもなんか上手だし。俺は、こんな子に育てた覚えはありません。


「、もっ……はな、っせ……っぁ」
「んん、は……ッ……、く……ん゛ん!」


堪え性なくというか欲に忠実にというか。

とにかく、あっという間にイかされてしまったことにショックを隠せない。
加えて吐き出した先が凛の口と顔だということが何よりも衝撃的だった。
こんなこと、絶対やらせるつもりはなかったのに。

呆然と凛を見下ろすと、丁度顔にかかった精液を手で掬う瞬間で。
自分でも吃驚するぐらいの速さでその腕を掴んだ。


「ぬーやが」
「全く話が見えねーんやっし……」
「なーしむさ……っなまえさんや、ぬぅもしねーんで」


わんが勝手んかいやる。
そう言い切って俺の手を振り払った凛は少しだけ不満気な表情で。
服が汚れるのも意に介さず下半身の服を脱ぎ捨てる様は豪快の一言に尽きる。
そして、何の遠慮も無く腰に跨った凛は掬ったもので塗れた右手と空いた左手で互いのものを握った。

時折良いところを掠めるのか、戦慄く腰を浮かせながら必死に快感を追う凛。
その姿は可愛いのだが。
どうして、何がしたいのか、なんて思考は浮かんでは消えてを繰り返す。
けれど、与えられる刺激と目の前の光景にそろそろ理性が擦りきれそうだ。


「ちゅ、っらかーぎー……!」
「っえ……ああッ! ん、あ……ちょ、っは……ッ」
「わっさ、……んれー、凛ッ、にじららん……!」


俺の手が加わったことで突然強くなった刺激に比例して声が大きくなると、凛の手はただ添えているだけとなる。
互いの先走りで滑りを帯びるそれらを擦り合わせるように動かして。
たまに先を弄ることは忘れずに。そうすると、快感の許容オーバーになってきたのか次第に凛の太腿が震え出す。
限界は近い。


「あ、っあ……や……ッん、あ、ぁっあ……も、イく……っ、あ」
「はッ……ん……、く」
「っん、う、あ……ぁ、あ、ああッ――!」


弾けた白色。目の前と思考と腹を汚す白色。
達した余韻の所為か何も考えが纏まらない頭が、ただ一つの欲を吐き出した。


「な、続き……駄目……?」
「……っ、かなさんかいしたらいーだろ……っふらー!」


久し振りに見た行為中の凛は扇情的で。
ごくり、唾液を飲み下した音がやけにはっきりと聞こえた気がする。
今までうじうじと悩んでいたのがどうでも良くなるぐらい、身体が凛を欲していた。




ああ、伝わらない!
-こっちの気もしらないで-



(ぬぅんかい我慢してたんさ……?)
(……なまえさんぬヘタレ加減んかいついて)


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