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一緒に帰ろうか、そう誘ってきたのは向こうだった。

夏の大会が惜敗に終わったため、残すは受験戦争のみ。
奴も大会は負けたと言っていたから必然的に帰る時間は一緒だ。
勿論二つ返事で了承した。俺達は所謂カレカノで、断る理由はない。

下校を共にするようになって、早くも1ヶ月が経とうとしている。
季節はそろそろ秋に差し掛かろうとしており、日暮れは早く気温も低い。
その所為か、絡めた指の存在感が増すような気分だ。
同性ということもあり堂々とくっ付けない俺らは、こうして人目が無くなった頃合を見計らっては手を繋いでいた。

この少し高めな体温が俺は好きだったりする。


「はー……そろそろ冬だねぇ……」
「……いやいやいや、ちょお気が早過ぎるんちゃうか」
「そーかなー……だって暦的にはもうすぐだよ?」


衣替えも済んだし、と言って奴はカーディガンの裾を見せびらかした。
確かに衣替えも暦的にも冬には近付いてきている。
最も、冬よりも先に秋なる季節が本格的にやってくるわけなのだが。
そんなことはどこ吹く風。隣の奴は冬を心待ちにしているように見え、ふと首を傾げた。
なまえは冬がそんなにも好きだっただろうか。


「自分、そない冬好きやったか?」
「んー? 別にそんなことはないけど」
「せやかて、お前めっちゃ楽しみにしとるやん」


そう問えば、なまえはへらへらと笑いながら「そう見える?」と口元を覆った。
この表情は照れている時の反応で、益々訳が解らない。
今の会話のどこにそんな要素があっただろうか。
ぎゅう、繋いでいた手が強く握られおもむろに口を開いた。

――――日暮れが早いからユウジと長く手繋でられるなーって思ったら、嬉しくて。

少し照れ臭そうに、しかしはっきりと言い切ったなまえ。
街灯にぼんやりと照らされる頬や鼻の頭が赤い。言われたこっちまで恥ずかしさで赤くなりそうだ。


「おま、よう……そないな小っ恥ずかしいこと言えるな……っ」
「だって、本当のことだし」
「ああああッ、もう言わんでええ!」
「ユウジ、顔真っ赤」


半ば声を遮るように声を上げそっぽを向くもなまえは全くもって意に介さず。
未だにへらへらとした笑みを浮かべ顔を覗き込んできた。顔を背けた意味がまるでない。
何度か握った手を引かれ、暗に此方を向けと促されたのだが。
羞恥に染まった表情を悟られるのは、何だか癪だった。例え既にバレているとしても。

「ユウジ、」

けれども、零れ落ちた自身の名に吸い込まれるように唇が塞がれてしまった。




Sugar lump
-溢れて溶け合う-



(互いしか見えていない)


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