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「嫌や嫌や嫌やあっ!」
「喧しい!」
「ワイがなまえと帰るんやーッ!」
「はあ?! いつもいつもそやってごねおってからに」


今日という今日は絶対譲らへんぞ、そう睨む財前の顔付きは険しい。
ギロリ、なんて効果音が付きそうな程の形相だ。
対する遠山は然して気にするでもなく、地団駄を踏んでいる。

何も知らない人間が見たら剣呑とした空気に思わず冷や汗を掻くことだろう。
しかし、それを眺める周囲の部員にとっては最早日常だった。


「まあたやってるでー」
「よお飽きひんな」
「つか、毎日見させられるこっちの身にもなって欲しいわ」
「ふふっ、喧嘩するほど仲がええって言うやないの」


そう言って遠巻きに二人を見やりながら微笑ましそうに笑っている。
部活自体は数分前に終わっており、他の部員は既に帰宅済み。
それでありながら部室前にたむろっている彼らは、とどのつまり野次馬だ。




「金太郎? 光? 何やっとるん」




そして、何食わぬ顔で現れた彼はこの口論の原因でもあり、遠山と財前の幼馴染でもあった。
やっと張本人のお出ましやで、冷やかし調の煽りは誰の言葉か。されど誰も何も気にしない。


「「なまえッ!!」」
「おー、どないした?」


声をかけた途端ににじり寄って来た二人をなまえは微笑で受け止めた。
その表情は穏やかで、遠山と財前とは温度差が激しい。
今にも取っ組み合いが勃発しそうな彼らの空気が場違いなのか。
はたまたなまえの空気が場違いなのか。

どちらにせよ、対照的過ぎて別の意味で笑いさえ浮かびそうだ。


「今日こそ俺と帰ってくれるよな!」
「ワイとやろっ? なあ!」
「お前は昨日も一昨日もそないなこと言うてなまえと帰ったやろ!」
「そん前は財前ばっかやっt「はいストーップ」
「「……」」

「そんな喧嘩ばっかしとると、どっちとも一緒に帰らへんよ」


ピシリ――表情を強張らせたまま固まった二人。
その様子をじっと見つめた彼は「冗談やって」と笑った。
けれど、後付けされた言葉は二人に緊張を与えても安堵は与えない。

そうして顔面蒼白な遠山と財前、という何とも奇妙で貴重な光景が出来上がった。
先までの騒がしさが嘘のように静まり返って、暫しの沈黙の末、先に口を開いたのは遠山である。


「そんなん、嫌や……」
「……」
「おん、俺も嫌や。せやから仲良おしよ、な?」
「……なまえが、そう言うなら…」


二人揃ってたどたどしく目線を彷徨わせながら、蚊の鳴くような声音だった。
その反応に反省の色を見たのか、なまえは俯く頭にそっと手を置いて。
――――解れば宜しい。柔和に微笑んだ。




それは懐柔
-手馴れた扱い-



(流石なまえやな……)
(あっちゅう間に事を納めおったで)
(まあ、何も解決してへんけどな)
(二人ともなまえちゃんのことほんまに好きなんやねえ)


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