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「んー……猫欲しいなー……」
「飼えば良いだろ」
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど」


うちのマンションペット禁止なんだよねー。
そうソファーの上でクッションを抱き抱え、ゆらゆら揺れる背中を見た。
煮え切らない言い方はいつも通り。

目線の先は最近人気だと言う映画のDVD。チョイスはなまえだ。
一人の女の子と猫の物語を描いた極々在り来たりなもので、俺は絶対手を出さない代物。
元々映画自体そんな頻繁には見ないが。


「猫は可愛いけど、内容はイマイチ……」
「……選んだのお前だろ」
「うん。選択ミスったー」


すっかり飽きてしまった様子のなまえは最早画面すら見ていない。
それどころか、クッションを抱えたまま俺の方に寄り掛かってきた。
映画を観る気は完全に失せたようだ。自分から観ようと言い出したくせに。


「景吾ー」
「何だ」
「猫も好きだけど、やっぱ景吾が一番好きだよ」
「……当たり前だ」


奴はこういうことを平気で言ってくる。
しかも、脈絡なく。良くも悪くも直球だった。
普段はふわふわとしているくせに、図ったように無防備な瞬間に来るものだから心臓に悪い。
気紛れ。そう言ってしまえばそれまでで。
だけれど、そんなとこがまた猫のようで可愛げがあるのだ。

景吾、再度俺の名前を呼んだなまえの方を向いて、真面目な表情に息を詰めた。
頬に触れる奴の指は冷たい。


「景吾、熱い」
「……誰の所為だ、誰の」
「照れてるんだ。可愛い」
「っち……嬉しくねぇ、っん……!」


近付いてきた顔に含まれた意図を察し、抗うことなく受け入れる。
耳から入ってくる音から物語は佳境を迎えていて、だがそんなことは俺達には意識の外。
どうでも良い。元より興味などなかったものだ。
そして自然な動作で体重をかけられ、それに従った。


「抵抗しないんだ?」
「あーん? ……して欲しいのかよ」
「まさか。乗り気なのは嬉しい限りだよ」


ソファーの柔らかさを背に感じ、にんまり笑うなまえを見上げる。随分と楽しげだ。
こんな時だけ元気になりやがって、そう心の中でぼやいてそっと笑う。


「……っ…は……っぁ、」


首筋から鎖骨にかけて食んだり舐めたりする姿が今度は犬を彷彿とさせた。
擽ったさにも似た感覚。しかし、込み上げる笑いは一瞬で快感と擦り変わってしまう。
纏まった思考は続かない。


「、ッ……く、ぁっ……、……っ」
「いつ見ても肌綺麗……っン、」
「ん、ッぁ……! おま、跡……っぁ……」
「あー……つい……でも、見えないとこだし」
「っざけんな……着替えとか、あるだろうが……っ!」


ごめんてー、誠意とは無縁な声音でおざなりな謝罪を口にした奴の愛撫は性急で。
あれよあれよという間に下半身はひん剥かれ、その手は既に下着にまで及んでいる。
それに戸惑っているにもかかわらず、なまえは気にせずに口を開いた。




「広いソファーって便利だね」
「っ、あ……? 、ぅ……っ……っは、」
「だって本来は座るためだけの用途しかないのに、広いってだけで……こんな使われ方、されるんだし」
「! ……ッぅ、あ……っ………ぁ……」




視界の端で白濁としたものが飛び散る。
奴の手が上下に動く度に。奴の手が前後に動く度に。奴の手が悪戯に握られる度に。

白い飛沫が、思考を乱し鈍らせた。


「あっ、ぁ、ゃ……はや、ッ……ん……っ」
「映画で時間取られちゃったし、今日は少し早めでいくから」
「はあ?! ちょ……ば、ッあ、ああ……っあ、んん――ッ!」
「あれ、何、もうイったの? うーん、……イくの早いし濃いねえ。溜まってた?」


なまえが愉しそうに笑っている。
馬鹿にしているんじゃない。ただ、露骨に尋ねてこちらの反応を面白がっているだけ。
ここで奴が望む反応なんて手に取るように解る。
だが、解ったからといってそれをしない事とは必ずしも一致はしない。


「――――ッ、……!」
「あは、かーわい……ま、溜まるのは仕様がないか。部活忙しいもんね」
「……解ってんなら、さっさと続き…すれば良いだろ」
「それなんだけど……景吾、明日も朝から部活でしょ?」


突然始まるいつもの会話。

どこかに飛んでいた理性が一瞬にして戻ってきて、問われている意図が解らない。
なまえの言わんとしている事が理解出来ずに「そうだが、」と曖昧に頷けば殊更奴は笑みを濃くした。
じゃあ、今日は挿れないでおく。そう爆弾発言を落として。


「おま、何言って」
「大丈ー夫、このまま終わりだなんて言わないから」
「は、ッ?! ……ちょ、っぁ……ん、んぅッ……」
「挿れない代わりに、色が無くなるまでイかせてあげる」


語尾にハートでも飛ばしそうな語調で。奴はさらりと続けざまに言い放った。




***






「……っふ、ぁ……ぁッ……なまえ、も、出な……っあ、!」
「ええ? まだ、4回だよ? まだまだいけるでしょー」
「まだって、やっ……あ、あッ、ぁ……っ」


あれから何時間経ったか。
時間感覚なんてものは疾うに無くなっていた。
視覚も聴覚も触覚も全て、感覚という感覚が快感だけを残して麻痺したような錯覚を覚える。

宣言通りただイかせることだけに重点を置いた手淫は絶え間なく。
否が応にも、上りつめる感覚は震える程に気持ち良い。
少なからず苦しみも感じている筈なのに、気持ち良さがそれを一瞬でも上回るから。
身体はそれを求めて従順に快楽を拾い上げるのだ。


「は、ぁっ……っなまえ、あ、また……っ……くッ、……ぅ」
「……これで最後にしようか」
「ほんっと、か……あっ、ぁ、」
「うん、本当だよ。だから、何も考えなくて良い」


耳に入ってくるなまえの言葉に本能的に返すけれど、実際のところ理解までは至っていない。
なのに、その言葉に孕んだ声音が優しくて縋りたくなるような、そんなものだから。

「あ、っあ……あ、! んんッ――――!」

大人しく奴の思い通りにさせてしまう。
何も考えなくて良い、その言葉通り達した瞬間俺の意識も飛んだ。




TAME
-彼だからこそ-



(背中痛ぇ、)
(やっぱソファーは痛いかあ……ここでシたら景吾がいつでも思い出せるかなって思ったんだけど)
(……ッ!)


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