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傍から見れば、その空気は砂を吐き出す程に甘い。
当の本人達がそれに気付いているかは置いといて、見せ付けられる周りの身にもなって欲しいものである。切実に。
とは言っても、最早日常化し過ぎたその光景は四天宝寺生にはさして問題ではなく。
生暖かい眼差しを投げ掛けるかスルーするかの二つに一つの反応だった。


「ちょお、ユウジ……そないせんでも歩けるし」


そして今日も今日とて通常運転。
公共の面前であるにもかかわらずなまえとユウジは腕を絡ませ歩いている。
二人の空間は確実に二人で居る時にのみ醸し出せ、そう思うのは万人共通ではないだろうか。
しかし、そんな全校生徒の心の声は残念ながら彼らには全くといって良い程伝わらなかった。


「喧し! そない蒼白い表情しおる奴に言われても信用ならんわ」
「蒼白いんはデフォや、っと……あぶな」
「ほら、言わんこっちゃないやろ! 万年病人は大人しく支えられとき」


僅かな段差に躓きバランスを崩したなまえを甲斐甲斐しく支えるユウジ。
そんな彼になまえは眉尻を下げて「世話焼きやんなあ」と微笑んだ。
嬉しそうに。幸せそうに。
また、その表情を直視したユウジは火を付けたように顔を赤らめばっと視線を反らした。


「っ、心配やからやろ! あほか……!」
「おん、知っとる」
「……っ……」
「かわええなあ……あ、ユウジ危ない」
「え……ああ、あんなん何でも、」


今、ユウジは前方から歩いてきた集団とぶつかりそうだったのだが。
それを取り繕う言葉は不自然に途切れた。
見上げたなまえの表情がさっきとは一転して、不満気なものになっていたのである。
意味が解らない、と小首を傾げた彼は本当に理解をしていない。
なまえのそれは、言ってしまえばユウジが抱いているものと同じようなものだという話なのだけれど。




「俺かて心配する」
「……」
「ユウジが怪我でもしたらと思うと、堪らん」




頼むから気を付けてや、不貞腐れたようなものから困じたものに変えて。
ぎゅ、っとユウジの腕を抱き締めた。


「……気ぃ付けるわ」
「せや、今日部活早よ終わったよな?」
「あ? おん、それがどないした?」
「久し振りに一緒に帰りたなってな。学校でしか会われへんし」
「んー……それやったら教室で待っとって。終わったら向かうから」


そう言えば、たちまち花のような笑みを浮かべたなまえは今にも小躍りをしそうな勢いだ。
ころころ変わる、そんな表情の豊かさにユウジの顔付きも柔和なものになる。
素直。彼にはそんな言葉が良く似合う。
――――ほな、放課後な。
別れ際に正面から抱き締め合って、なまえは自身の教室へと消えた。

今一度言おう。ここは学校である。




耽溺愛護
-慈しみ深く盲目的-



(一応ここ学校なんやけど……?)
(し、白石……っ)
(っはー……バカップルも大概にせぇよ)


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