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「俺、声出しすぎなんちゃうか」


藪から棒に、謙也はそう尋ねてきた。
至極深刻そうに重々しく「なあ、なまえ」と声をかけてくるものだから。
こちらもどうしたのと本腰を入れたというのに。
言ってしまえば、どうでも良い。


「知るか。俺はお前以外の男とヤったことねえし」
「あったら吃驚やけどな。ホモやったんか」
「お前がそれ言うのか……で、何でまた急に声なんか気にし出したんだよ」


本題について深く掘り下げてみると、言い出したのは自分のくせに「急にやないけど」と言葉を濁した。
うろうろと視線が彷徨って、随分と恥ずかしそうだ。
恥ずかしがるぐらいなら初めから言わなきゃ良いのに。


「クラスの奴と、話してん……その、スるとき、」
「ほー……で? 周りの奴らは声を出さないって?」
「全くってわけやないみたいやけど……」
「……俺は気にしないから問題なし。はい、この話終了」
「雑い!」


心底興味ない上、明らかに納得いかないとでも言いたげな謙也を軽くあしらう。
すると、途端に喚き出すものだから悪戯半分で持ちかけて見た。

――――じゃあ、直してみっか?

直せるん?!そう目を輝かせる謙也へ笑いかける。
その笑みは恐らく底意地の悪いものだっただろう。
騙されやすいのは楽にこしたことはないが、少々心配になる。



***



震える謙也の手が俺の動きを妨害するのはもう何回目か。
その度にやんわりと、それでいてすげなく引き剥がし行為を再開させる。


「……っ……〜〜、!」


ふるふると首を左右に振りながら、必死に口元を押さえる謙也。
声を抑えようと健気にも頑張っていた。
我慢してたら減るかもしれない、その言葉を信じて。
そんなことは決してないと思うのだが、本人がやると言ったので俺は手伝っているだけである。

因みに俺がやっているのは、謙也が感じるポイントを撫でるだけ。
主に首付近と下半身。
手の平全体で撫でたり、指先を這わせてみたり。
大きな声を出さなくて済む程度に収まるよう刺激を与えている。


「、……ッ……――っァ……」
「別に、気にしなくて良いのに」
「う〜〜……っ、やや……!」
「はいはい」


頑なに押し殺して、既に顔は真っ赤だ。
酸素すらも取り込めない状況下で、触っている間は息も止めていた。


「っは……、……〜〜ゃ、ッ……、」
「強情」
「うっさ、……ん! ……ッ……、……っふぅ」
「……大丈夫か?」


自ら白旗を上げない謙也は非常にいじらしく、愉しみ甲斐もある。
しかしその反面、心配にもなった。
弄り倒したいとは思いはするけれど、謙也に無理はさせたくない。
こいつには絶対言ってやらないが。

脚を弄っていた手を一端離し、熱く火照っている頬を撫でる。
その動き少し意識が戻ったのか、きつく瞑っていた眼を開いた。
肩で大きく息を吸いながら、ぼんやりと俺を捉える。

泣きそうで。怯えてそうで。

でも、俺を俺と認識した(であろう)瞬間にくしゃっと表情を崩すのだ。
今度は嬉しそうに。ああ、今のはキスを強請る顔だ。


「、なまえ」
「ん……、っは……まだ抑えるのか?」
「やって、恥ずかしいやん……っ」


俺、男やのに。
なんて瞳を潤ませて弱弱しく呟く奴の心境は恥ずかしさと悔しさと、怖さだろうか。


「……まあ、頑張るのは一向に構わないんだけどな」
「おん……?」
「俺も、色々限界なわけよ」
「は? ……ッ、!」


腕の中で大人しく収まっている謙也に少し下半身を密着させると、漸く言葉の意味を理解したらしい。
ただでさえ赤い顔が耳まで染んでいてつい”可愛い“と口から零れ落ちる。
いつもならばこの単語に異を唱えるのだが、今日は違った。
ごにょごにょと不明瞭に何か言葉を吐くと、直ぐ様俯いてしまったのだ。

惜しい。
俺より少し小さい謙也に顔を伏せられると表情が全然窺えない。
まあ、どんな表情をしているかなんて手に取るように判るのだけれど。


「――――……そんなこと言ってると、食い散らかすぞ」
「……残さず、食べてな?」
「っ、たく……声抑える余裕なんてやらねえからな……!」


余裕を無くしてるのはきっと俺の方で。
無理をさせたくないという理性とは裏腹に滅茶苦茶にしてしまいたい衝動に駆られる。


「ぁ、あ! ……、っん……ッ、……!」
「謙、也……」
「……っぁ……ん……ん、っ……」
「、苦しいだろ?」


挿れたときに悶える喉仏を晒さないで欲しい。
そんな堪らないという表情をしないで欲しい。
そんな擦れた声を上げないで欲しい。

全部攫えて食べてしまいたくなるから。




「もっと、出せよ」
「――ああッ、ぅ……や、……あ、あッ……」




先端が突き上げる一番奥。一段と声音が艶っぽくなる箇所。
散々最初に焦らしていた所為か、いつもより反応が過敏なような気がする。
勿論そんな謙也の姿は俺を煽るだけなのだが。


「ふ、あっぁ……ん、んっ、や……ァッ、!」
「……ッ……、は」
「こえ、…や、やぁッ……っは、あっ、……ン」


口元を押さえていた手は既にその意味を為しておらず、ただ添えられているだけ。
なのに、偶然とはいえ時折口を塞ぐために折角の声がくぐもる。
それがとても気に入らない。だから、邪魔な腕を退かした。
そうすれば、謙也の表情は熱に浮かされながらも歪むのだ。


「もっ、意地……ン、ッ悪、……あっ、ぁぁ、」
「ッ謙也……好、き……っ、く」
「っ、あほ……や、……ぁッあ、……ああ、っ、ふああ――――ッ!」


歪んだ顔も意図せず零れるそれも全て、俺の好きな謙也の一部で。
その全てが丸ごと好きだから気にしていない、というのがどうして伝わらないのだろう。




W hole
-丸ごと愛しましょう-



(別に周りと違おうと普通と違おうと)
(然して重要ではないのに)


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