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気が付けば目で追っていたなんてよく聞く話ではあったが、まさか自分がするとは思っていなかった。

そう俗に言う片想いというやつに桃城は頭を抱えていた。
しかもその相手というのが、同い年で同じクラスで――同じ男なのである。
展望は全くといって良い程にない。


「……桃城」
「! っな、何だよ……!」
「何だよはこっちの台詞だっつーの。さっきから物欲しそうにこっちを見やがって」
「物欲し、っ……そ、んなことねぇだろうが!」


たどたどしい否定は端から見たら異様に映ったかもしれない。
それでも桃城には精一杯であったし、幸いなことにみょうじはこの手の事には鈍感だった。

昼食に賑わう教室内。勿論二人も昼食の真っ最中。
みょうじがたった今口に含んだパンは前々から桃城が目を付けていたやつだ。
だから、都合良く勘違いしたのだろう。


「ったく……ほら」
「は?」
「は? じゃねぇよ。一口やるって言ってんだ、ありがたくさっさと食え」


差し出された食べ掛けのパン。
ぐっと桃城の喉が鳴って、でもそれを素直に食べるわけにはいかなかった。
張り合いにも似た無駄な意地だと自分でも解っている。
それでも。

みょうじには他意がない。

その一点のみが胸をきりきりと痛め付けていた。
早く受け取らなければ。みょうじが訝しむ。
でも、受け取りたくなどない。他人にも容易く行う行為など。


「桃城……?」
「……んだよ」
「お前……腹の調子でも悪いのか」


余りの検討違いさに脱力と苦笑いを禁じ得ない。
そのみょうじの姿に桃城の脳内では憤慨と一抹の寂寥が湧いて、すとんと消化された。
結局伝わることなど夢のまた夢なのだ。




「――――……んなわけねえだろ!」
「っああ?! ちょ、おま、一口でけえよっ!」
「はっ! 俺に一口やるってことはこういうことなんだよ」
「あーあーあー……俺のパンが……なんて無惨なことに……っ」
「ありがたく食えっつーから食ったんだろ、何だよその反応!」




みょうじは未だ恨みがましそうに唇を尖らし、ぶつくさと文句を言っていた。
それに平静を装いながら突っかかってやって、なんて虚しく滑稽な行動だろうか。
これでどちらかが女だったら、などと無意味な逃避に思考を走らせ「治まれ、治まれ」と呪いのように呟く。
内実はバレずとも違和感は知られてしまうかもしれない。


「……っもーらい!」
「あっ!? 俺のポン、――ッ!!」
「これで相子だな」
「! ………おま、残り全部飲みやがったな!」
「はっ、食べ物の恨み思い知ったか!」


前言撤回。

みょうじには違和感すら全く伝わっていなかったようだ。
彼の目には不自然な間が不自然と映らなかったようで。
桃城の残り僅かだったポンタを飲みほすことで満足気に笑い、普段通り残りのパンを咀嚼していた。




知らぬが仏
-無意識の虐待-



(でも、諦められねぇな……諦められねぇよ)


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