感じた違和感は夢ではなかった。
放課後の部活の最中、急に感じた眩暈に抗えず卒倒した財前。
そして運ばれた先で目を覚ました彼は自身の変化に目を見開く事となる。
「――――……な、!?」
絶句する財前としたり顔の白石、という何とも対照的な反応を示した二人。
わなわなと震える声で「……どういうことか、説明してください」そう問えば、しれっと彼は答えた。
女体化の実験だ、と。
実験成功や、そう笑う白石に殺意にも似た感情を抱いたのは自然だろう。
いけしゃあしゃあと悪びれも無く言い放ったその口振りに、財前は二の句が継げない。
固まっている彼を置いてけぼりに白石は更に言葉を続けた。
曰く、この現象は半日で戻るとのこと、今日の部活・明日の朝練は休むこと、らしい。
「……最悪、」
「まあ、今は休んでこっそり帰り。保健室は留守やて張り紙しとくさかい」
「もとはと言えば、あんたの! ……や、も……ええわ」
随分身勝手だと思う。
けれど、深く吐いた溜め息は諦めの表れだ。
それを見とめた白石はとても良い笑顔で保健室を立ち去った。颯爽と。
謝罪はない。そこに腹立たしさはあるけれど、今更何を言っても無駄でもあった。
事は起きてしまったのである。
そうして手持無沙汰になってしまって、大人しく一度眠ろうと踵を返して。
ふと、目の前にあった全身鏡に目がいき、おもむろに上着を脱ぎ捨てTシャツの裾を捲り上げた。
「うわ……ちっさ……、萎えるわ……」
興味を抱いたのだ。
周りの女といえば、母と義姉のみでこうもまじまじと見る機会もない。
しかし、対面した膨らみは大した大きさはなく。
少なからずショックを受けつつも、おずおずとその僅かな膨らみに指を触れてみた。
最初は覆うように包んで、その弾力を確かめる。柔らかい。
「――っん、……ッ……何や、変な感じ……っふ、ぁ「光ッ!!」っ!?」
まさか開くとは思っていなかった入口が勢いよく開け放たれ、そこに立っていたのは恋人であるみょうじだ。
息を切らし、切迫した表情で財前を凝視している。
財前は財前でぽかんとみょうじを見返して、内心では激しく混乱していた。
「(見、られた……っこんな、とこを……ッ、)」
「ひ、かる……? その、格好……え?」
「〜〜〜〜っう、見んなや……!」
今の今まで弄っていた胸を両手で覆い隠し、ばっとみょうじに背を向ける。せめてもの抵抗だ。
そして互いにひどく狼狽していたが、先に口火を切ったのはみょうじだった。
「光、なんで胸があるん……?」
「……部長に、変なもん盛られた」
「ああ、成程……――――なあ、光……こんな時にあれなんやけど」
「何すか」
「触ってもええ?」
何を、など聞くのは無粋で。言っている内容と真面目な声音がいやにちぐはぐで。
気が付けば無言で頷いていた。
元々、みょうじに触られるのは好きなのだ。
それに興味は未だ健在である。
普段は弄られるとむず痒いそこが、女の身体でかつ彼に触れられることでどうなるのか。
想像するだけで奥が疼いた。
***
「ぁ、っ……ん! ………あ、ァッ」
「……相変わらず感度ええな」
「ッん、ぅ……そ、なこと……ふ、ぁ、んっ……」
みょうじの大きな掌に揉みしだかれながら、耳元に熱い吐息を感じる。
いつもと変わらない手付きに安堵したものの。
抑え切れない声が堪らなく恥ずかしい。
そして、とても目線のやり場に困っていた。
「……っゃ、ぁ……みょうじさッ、ここ、嫌……ッは、ぅ!」
「何で? めっちゃ眺めええやん」
どこが、そう言ってやりたいのに。彼の愛撫がそれを阻止していた。
少しでも顔を上げれば鏡に映った自分の姿が見える。
逆に、目線を下げればみょうじの掌に収まり形を変える胸を直接見ることになる。
「あ、っぅ……変、態ッ……っ、……あ、ぁあ」
へえ、どの口がそないなこと言うん。
低く、意地悪気に、その声は鼓膜へと響いた。
その声に身を震わせている間に、みょうじの指が財前の顎を捉えて離さない。
しまったと頭が理解した時には既に遅し。
そのまま顔を真正面に向かされ、溢した己の息は荒かった。
「よお、見てみ。自分の姿……まんま女子やで」
「っんん……ゃ、ぅ……は、ァッ……!」
「光は女子になっても、かわええんやな」
「……あぅ、ッふ……ぁ……」
鏡越しにじっとみつめられ、熱く囁かれ。溶けそうだ。
しかしながら、止むことのない愛撫は決して下には及ばない。
一貫して胸にのみ。それが色事に傾いた脳内には物足りなくて。
脚同士を擦り合わせるも意味は無かった。
「――――ッ、も……胸ばっか、っ弄り、すぎや!」
「……ああ、すまんすまん。そういやこっち触っとらんかったな」
「ふっ、……ッあ?! あ、ぁッ……ひ、っァ、」
「んー……ええ反応」
随分と楽しそうな声色だ。
けれど、それに構う余裕など財前にはない。
秘部と蕾を往復するようになぞられ、不意に押される蕾から痺れるような刺激が走る。
怖いような癖になるような。
「ん゛、?! ぁ、……な、ん……ッふ……、ぁ」
「中も変わらず熱っいな」
「何や、変な……感じ……っ……」
指を入れる瞬間に圧迫感はあったが、実際に入ってしまえば妙な違和感があるだけだった。
指増やすで、そう感覚的に遠くから聞こえる声に必死に頷いて。
益々よく判らなくなる。
中を掻き混ぜられる感覚だけが鮮明で、他の事が擦り抜けて落ちていく。
必死で掴まれる物を捜して、漸く掴んだのはみょうじの服の裾。
一度そこを掴んでしまえばそこしか縋るべき場所はない。
指先が白くなる程力を込めて「挿れるさかい、力抜いとき」と囁く声さえ別次元のようだ。
「ッあ――……は、っぁ、ぁ、……ッ……」
「大丈夫か、……?」
「、っん……早よぉ、……動いて、くださっ……ああ、あっ!」
「っ光、自分で胸と下、弄ってみや」
ぐんっ、と突き上げられる感覚に痛みと快感が混ざる。
粘着質な水音の合間に聞こえた言葉の意味も理解する前に、手は彼の言葉に従っていた。
「ふ……あッ、ぁっ! ……やあ、っん、……んんッ」
「そや、ええ子……っ……」
「んあ、あ、みょうじッ、さ……ぁッ、あ……も……も、あかっ」
「っせやな……光、弄る手、緩めたらあかんよ……!」
「っは、ぃい……っふ、ぁ、ぁぁ、あ――――ッ!」
達していながら、白濁液を吐き出さない身体はやはり違和感だった。
そこに男のロマンはあったか。
-答えは、否-
(白石、自分ええ仕事したわ)
(せやろ。もっと崇め讃えろや)
(白石様ー!)
(アホが二人居るわ……ッ!)
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