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海堂、そう囁かれた声音は熱を含んでいた。
呼ばれたからと内心で言い訳をして面を上げれば、待ってましたと言わんばかりに降ってくるキスの嵐。
そっと抱擁してくる腕。
無言の誘いが何を示しているかは明白で、理解に容易い。


「っ……先、輩……!」
「んー?なーに?」
「苦しい 、っす……」


容易いけれど、そう易々と受け入れるわけにはいかなかった。
本心は別だとしても口から出た言葉が示したのは拒絶。
その要望通り少し腕の力を緩めたみょうじはなお熱い眼差しで海堂を見下ろす。

欲に濡れた双眸。
その姿にドクリ、と心拍数が跳ね上がった。
彼が海堂を欲っしている。
それがありありと伝わって、こっちまでその気にさせられるのだ。


「駄目なの?」
「明日、部活っすから」
「優しくするし」
「……そう言って、次の日に響かなかったことないじゃないっすか」
「じゃあ、今日こそ絶対」
「……いや、です」


何て無意味な押し問答だろう。
茶番にも程がある。
話をしながらおもむろに押し倒され、なおも拒絶を示す海堂は顔を耳まで赤く染め上げていた。
更に視線を合わせないように顔を背けるものだから、いよいよ拒絶は形だけとなる。




「俺、頑張るから」




なんて真っ直ぐに言われ深く口付けをされてしまえば、今日も例の如く流されてしまった。



***



熱く籠った吐息と嬌声。
絡まって溶けて霧散して、空気と同化する。
そんな中で聴覚を刺激する水音も露にされて、段々と思考が溶けていく。


「……っ……ぁ……、……あ、ッ」
「……」
「ぁ、……ッく……――っ……、……」


下にあるシーツを握り締めてもほんの一瞬しか気休めにならず。
上げた制止の声はみょうじの意識をちらりとだけ向けさせる程度のものであった。

反り返らんばかりに勃った中心からは、手が上下される度に腰が揺れる度に飛沫が飛ぶ散る。
互いの腹を汚しながら、しかしてみょうじは微塵も気には止めていない。
そして始めから隠し切れてなかったがその眼は雄々しく輝いていて、正しく捕食者そのものだった。


「っふ、……ん……ッ……!」
「……確か、ここらへん、だったよう、な」
「、ああッ……は、っ……や……ッやめ、」
「だーめ、手はこっち」
「ッ……ゃ、ぅ……あ、ぁっ……ァ……」


探るような指使い。弄られる内壁。
それでありながら、指先が抉る箇所は的確に海堂の弱いところである。
止めようと伸ばした手は素気無くシーツへ戻され、力の入らない手では逆らえない。


「は、っあ、あ……ッ!」
「痛くない? 大丈夫?」
「だっ、じょぶ、……っす、ぁぁッ……ンッ……、んん、っ!」
「……」
「っひ、ぁ……ンッ、……っは……はぁっ………は、っみょうじ、先輩……?」
「まだ、イかないでね」


弄る手付きが一端止まったことで海堂は大きく息を吐いた。
突然なくなった刺激にきつく閉じていた目蓋を開くと、そこにあったのは切羽詰まったような顔。
みょうじの言葉を頭で理解する前に硬く濡れぼそったものが押し込まれ、衝撃に身を固くさせる。


「……ふ……っ、ぅ………ぁ……」
「は、……海、ど……っ」


動くよ、そう優しく額に張り付いた前髪を払ったみょうじはその声音とは裏腹に勢いよく腰を引いた。
ずっと引き摺られる感覚に戦慄いたのは腰と喉仏。


「ぅぁ、あっ、……ッ……や、……まっ、ッ、ぁ」
「……っ…ふ……、」
「ひ、ッぅ……ぁ……そこ、ばっか、い、ッ――あ、っあ!」


止まらない律動は声を抑えるなんて余裕を海堂に全く与えない。
しかも、的確に狙って一点を突くものだからますます訳が判らなくなる。
足を伸ばしても縮めても逃れられなくて、反射的に身を捩ってシーツを掻き毟った。
限界は間近だ。


「ッぁ、みょうじ、せっ、ぱ……っも、……は、ぁ、あッ…!」
「、っく……!」
「あ、! ……っん、ふあ、あ――――っ」


突き抜ける感覚と真っ白に弾けた視界に全身が震える。
中に注がれる熱いものを感じつつ、海堂は身体から力を抜いた。
手放していく思考の片隅で、これは明日に響く、そう思いながら。




Gute Abend.
-本当は望んでた-



(だから、そのままで)


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