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月の無い暗い夜半だった。
何故かみょうじと千歳は外に佇んでいる。
何をするでもなく、ただ、互いに向き合って互いを一意に見詰めていた。

無表情のみょうじ。
唇を真一文字に引き締めて強張った面持ちの千歳。
緊迫感に滲む嫌な汗は背筋を伝って不快感を募らせる。
言葉を発することはおろか、息を吸うことですら憚られるような、そんな張り詰めた空気の中。




「いつまでも傍に居る、なんて、都合の良い夢ですよ」




そう言い放ったみょうじの声を境に音が遠退いて「    」彼の唇が何かを形作る。
そして踵を返したみょうじを追って一歩足を踏み出した、ところで全身に衝撃が走った。
ぱちくり。
ゆっくり瞬きをして、視界に広がっていたのは肌寒い外などではなく、見慣れた自室で。


「あー……また何も被らんと寝おったやろ。いくら千歳先輩でも風邪引きま、……先輩?」


居間でゆったりと寛いでいたみょうじが不思議そうに千歳を見ていた。
その顔付きは記憶に焼き付いているような、無感情なものとはかけ離れていて。
安心したと同時に緊張の糸が切れたらしい。

ぽた。丸い染みがカーペットに出来る。
それにみょうじが驚きを露にするのは当然と言えよう。


「え、先輩、どないし「みょうじ、ッ……っく、俺、俺……っ」
「……何があった知りませんけど、一端落ち着いてください」


一先ず直ぐ様に近寄り撫でた背は、驚くほど小さかった。



***



事の顛末を言えば、悪夢を見た、ただそれだけである。
けれど、それが千歳に与えたショックというべきか破壊力というべきか、それが大きかったのだ。
その証拠に先程からずっと泣き通しで、どうしたものかと頭が痛い。
なんでも「別れたい」、そうみょうじに切り出されたそうだ。しかし夢の話である。


「っ……、ぅッ……みょうじっ……」
「何ですか、先輩」
「触って……、欲しか……」
「はあ?」


想像もしていなかった言葉に上がった素っ頓狂な声。
それを千歳は拒絶と取ったのかみるみるうちにまた潤み出して。
慌てたみょうじは口早に了承を言う他なかった。
そうすれば、へにゃりと嬉しそうに安心したように笑うのだ。

千歳のその表情に弱いことはみょうじも自覚済みである。


「千歳先輩、顔上げや」
「ん……っ……は、」
「……ふ……、久し振りやから……止まらんと思いますけど、」
「そっでよかよ……ッも、考えたくなか……ぁ、!」


みょうじの首後ろに回した腕にぎゅっと力がこもれば、それが合図になる。
噛み付くように唇を押し付け舐る口内。
親しんだ感覚を堪能しつつ、しかし早急に標的を胸元に変える。

一連の前戯を千歳は求めていないかもしれない。
それでも、前戯の省略などみょうじには有り得ないことであった。


「、っ……ん、……ふ……みょうじ、」
「……」
「ッ、ァ……、っ……――っ、んん!」


指先で転がすよう突かれる毎に上擦る声帯。
それを必死に抑えようとみょうじの首筋に顔を埋めるのだけれど。彼はそれを許さない。
千歳先輩、前戯の合間に発した声音はどこか窘めるようなものでありながら、有無を言わさないものだ。




「考えたくないんやろ? なら、お望み通りしたりますわ」
「ン……あっ……は、ぁ……んッぅ、……」
「そん代わり、」




――――先輩も、形振り構わず啼いてください。

まるで甘言だと。頭の片隅で思う。事実願ってもない誘いだった。
縋ったのは千歳だ。けれど、了承したのはみょうじだ。そして、実際に与えるのもみょうじだ。


「っ、! z……ぁぁ、ッふ……、あ……く、……ッ」
「そや。それでええですよ」
「や、ッ恥ずかし、か……ぁ、っあ……ん、あ、あ」
「……やらし、」
「……ッああ、ぁ、……は、ぅっあ」


空いた手が服の上からでも判るくらいそそり立った中心をぎゅっと握り込む。
そうすれば大袈裟なまでに腰が跳ね、行き場を失った両手がシーツを掻いた。


「あ、あ、…っふ……ゃ、ぁッ…」


半開きの唇から洩れる吐息混じりの喘ぎ声。
刺激が与えられる度に唇を一瞬噛み締めて、駄目だ、と歯茎から力を抜く。その繰り返しだ。
従順なまでに、みょうじの言われたことを守ろうとしていた。
それを望んでいるのかもしれない。


「みょうじ、……はッ、やく……欲しか、ぁっ」
「っ……中を解すまで待ってください」
「ッァ、ん……ぁ……、……っ……!」


今、目の前で触っているのはみょうじだ。紛れもなく当人である。
欲に濡れた眼で、真っ直ぐ千歳を見つめていた。


「……、……ぁッ……っひ、ぁ! や、あっあ、」
「先輩、かわええ……」
「あ、ああっ、……ふぁ……――〜〜ッ! ……は、ぅ……、」


解すという名目で好き勝手に蹂躙していた指は、おもむろに抜き去られ。
息を吐く間もなく、中はみょうじの昂りで押し広げられた。
普段ならばおざなり過ぎると声を上げて非難するところだが、今日は特殊だ。

じんじんとした痛みと熱の中で唇を戦慄かせる千歳。
耳まで真っ赤に染まった表情は、どこか恍惚としていた。


「……ほな、ぎょうさん啼いてもらいましょか」
「――っひ、ぁ……く、……あッ、あ、っん」
「夢なんて、忘れるぐらいっ……滅茶苦茶に、突いたりますわ……っ」
「ふあ、あ、っ……ぁ、んぅッ……や、」


それでいて、苦しいとも悲しいとも取れる顔付きだった。
泣きそうに眉を寄せ、目を細めて虚空を見る。
まるで、何も映してないかのような。




「千歳、先輩ッ……」
「んん、な、ねっ……あ、っは、ぅあ……ッ」
「俺っ……別れるつもり、ありませんッ……から、」
「ん、ッうん、……ひ、っあ、」
「つか、絶対放したらん」
「ふあ、あッ――――〜〜! ……っ、……は、ぁ」




覚悟しとき。そう囁かれるのと前立腺を強く抉られるのは同時だった。
そうして、張り詰めていた中心から吐き出した白濁液と同様に、思考も真白く弾けたのだ。




Nightmare
-砕いてみせよう-



(夢の中の俺より、現実の俺を信用しろや)


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