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カチカチと時間を刻む秒針の音が無駄に大きく聞こえる。

家族全員が旅行に行ったという恋人の自宅。
しかも明日は都合良く部活が休みの日。
お膳立てされているのではと疑念が湧く程に事に及ぶには丁度良かった。
恋人である先輩もその気だろうし勿論俺だってその気だ。


「……リョーマ、」
「先ぱ、っん……!」


閉じた唇を抉じ開ける様に舌先が押し付けられれば、拒む理由もなく薄く口を開く。
少し余裕を無くした風にも取れる荒々しい舌使い。
感じるのは酸欠と微弱ながらの快感。
必死に先輩の服を掴んで流されまいと抗うのだけれど、結局は無駄な抵抗に終わった。
満足したらしい先輩が吐息混じりに顔を離す頃には俺は完全に腰砕け状態。


「……っん、……は、ぁッ……」


テニスでもこんなに乱れない呼吸を抑え込もうとするのだが、どうにも上手くいかない。
先輩は直ぐに調子を取り戻すのに。
そんな俺の心中を察してか、小さく含み笑いをしたなまえ先輩はテレビの電源を切った。

これが始まりの合図。
雄の顔付きになった先輩を止めるのは至難の技だ。
元より止める気は更々ないけど。


「明日部活、無いんだよね……?」
「ないっす、」
「じゃ、思う存分……いただきます」


おざなりの断りを口にしてなまえ先輩は早々に覆い被さってきた。



***



先輩とのセックスは長いと思う。
別に誰かと比較したわけではないから、あくまでも思うだけだけれど。
既に俺は先輩の倍以上は吐精を果たしていて、それでありながら行為は終わりの兆しを見せない。
中を突き上げる男根と巧みな手淫にまた射精を促された。


「……〜〜っぁ、ぁ……、……ッせんぱ、」
「っん、……」
「ふあッ、あ、っ……ァ……ッや、あ」


達した直後だというのに先輩は律動を止めようとはしない。
過敏になった身体に降りかかる刺激の波から、反射的に逃げようと身を捩じらせる。
それを許さないとばかりに腰を力強く引かれて、また喉が引き攣った。


「っ、ゃ……待って、ぁっ……、ま、だ……ッんん」
「ごめん、ッ……!」
「――ッあ、ぁあ、っ、ゃ……ぁ、ぁッ……!」


戦慄いた喉から鳴いた声が自分のものとは思えない。
本来なら女が上げるべき色を孕んだそれは恥ずかしくて堪らないのに。
先輩が望んだ。ただ、それだけで声を曝け出すには十分だった。


「なまえせっ、ぱ……先、輩っ、ぁ……ん、ァッ」
「は、ぁ……っ、」
「、っ……ゃ……あ、っあ……」


叩きつけられるように奥深くを抉られれば、当然のように意識が持っていかれた。
繋がった部分から全身へ痺れが広がる。
きっと表面は冷えているはずなのに、それを感じないぐらい内が火照っている。熱い。
絶えず襲う快感に強く瞑ってしまいそうになる目蓋を必死に押し上げて。


「リョ、マ……ぁ、ッ……」
「ッ、! ……っは、ぁ、ぅっ……」


気持ち良さそうな先輩の顔を目に焼き付ける。
男である俺の身体でもちゃんと感じてくれている、それを確認したかった。
嬉しい。嬉しいんすよ。先輩。

視線に気付いたのか、なまえ先輩の手が俺の額に張り付いた前髪を払う。


「も、少し……我慢してくれな、」


その払った指はとても温かかった。
思う存分いただく、そう言った癖に。
少々強引さは垣間見えるけれど、結局のところ好き放題にされたことはない。
いつだって俺のことを優先してくれている。

お人好し過ぎるのだ。この先輩は。
もっと部活の先輩らみたいに自分勝手になっても良いのに。
受け止めるから。ねえ、先輩。




「あっあ、……っんぁ、ぁ、……せんっ…〜〜っも、……!」
「俺も、っ……く、」
「……っひぁ、あ、っあぁあ――――ッ、」




一番奥を突かれると同時に張り詰めた中心の窪みを擦られて、透明に近い精液を吐き出した。
一拍遅れて中にじんわりと浸透する熱。その感覚に、ぶるり、と身体が震える。
与えられていた刺激という刺激全てが一気になくなって、事後の身体はひどく怠く重い。
酸欠さながらに呼吸を繰り返し、正常な思考など以ての外だ。


「リョーマ」
「……っ……、は……い?」
「好きだよ」
「……俺も、好き……だし」


好き、だなんて直接口にするのは好きじゃない。
でも。言ったときの嬉しそうな先輩の顔が好きだから。俺はそれを口にする。




クォーツの隻影
-その片影を追う-



(あれ、もうこんな時間か)
(……先輩、長いっす)


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