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紅葉が見頃を迎えた秋口。
謙也となまえは大阪からちょっと足を延ばして京都に温泉旅行に来ていた。

ちょっと値は張るが、風情が合って落ち着いている。
旅館選びは間違っていなかったようだ。
二人が通っている医大の長期休暇は世間と異なっていることもあって、移動も順調。


「おお! めっちゃ眺めええやん!」
「謙也……せめて荷物置いてから感激しろって」
「堪忍堪忍! けどなまえ見てみぃ、綺麗な紅葉やでっ」
「……ほんとだな」


荷物を置いて窓辺に近寄ったなまえは謙也を倣うように外を眺め、穏やかに目を細めた。
紅葉狩りをする人の声を遠くに聞きながら、暫くの間無言が続く。
見惚れるほど素晴らしかったのだ。

やはりここにして良かった、そう満足気に謙也は顔を景色から隣の彼に移して。
思ったより至近距離にあったその顔に息を詰めた。


「っん! ……――ふ、ぁ……」
「……っは……ごめん、謙也が可愛かったからつい」
「!? 〜〜〜〜っか、可愛くなんか、あら、あらへんしッ」
「っはは! まあ、そういう事にしておくわ」


みるみるうちに眼下で赤く染む紅葉に負けず劣らずなほど真っ赤に染まっていく謙也。
その原因を作った張本人は喉を震わせて笑いを堪えていた。
先の発言が決して嘘偽りやからかいの類ではないことは、重々解っている。
だからこそ、謙也は羞恥に染むのであり言葉を失くすのであった。

直情的。そこに長所短所はあるけれど、嫌いではない。


「さて……夕食までには時間あるし、風呂にでも行くか?」
「っせやな! ちゃっちゃと風呂に入って部屋でのんびりしよーや」
「そーすっか。謙也はー……Lだろうな、ほら」
「さんきゅ」


この旅館にしたもう一つの見所。それが温泉であった。
風呂好きであるなまえに喜んでもらうためにわざわざ厳選したのだ。
そのかいもあって、嬉々としている姿にほっと胸を撫で下ろす。
が、どうやらそこに意識を持って行き過ぎたらしい。
お前も早く着替えろよ、と声をかけられたときには既になまえは浴衣姿だった。


「早ッ! おま、楽しみにし過ぎちゃう?!」
「いいから早くしろって」
「お、おん」


淡い藤色の浴衣。ただそれを着ているだけなのに。




「(何か、めっちゃ似合うとる……っ)」




何をこなすにもスピードが命な謙也は素早く浴衣を着ようとしていた。
けれど動く度に視界の端になまえの姿がちらついて、いまいち集中出来ない。

頬杖をついて卓上のマニュアルを見つめている。
少々長い横髪を鬱陶しそうに耳にかける。

普段からよく見ている光景なのに、どきどきと心拍数が上がって仕方がない。
だだ漏れとなった3割増の色香。
ごくり。大して出もしない唾液を呑み込んでふらっとなまえに近付く。


「謙也? ……、っ?!」
「ん、む……ッ――、は……っン、ん」
「……、……ん……」
「ァ、っ……! ……ふ、……んあッ!?」


半ば椅子に乗り上げるようにして、訝しげに面を上げたなまえの唇を攫う。
生温かい口腔内はまごうことなくなまえの味で。
もっとと強請るようにキスに没頭し始めたところで、不意になまえの指が背筋を這った。


「ッゃ、……ぁ……なまえ、ッ……っひ、あ、そこ……っあか、ん……!」
「へえ……そっちから誘っといて、文句言うんだ?」
「や、てぇ……あうッ! っは、なまえ……ぁッ、めっちゃ、…っん……浴衣似合うとる、からぁ」
「なに、それでヤりたくなったって?」
「あッ、ぅ……ふ、……――っゃ、……そこ、ややぁっ……ッ」


背骨に沿って上から下へ。たまに擽るように脇腹へ。そしてなぞるように腰骨の上を。
弄る手付きは浴衣の上からでも十分な威力を持っていた。



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