外灯にのみ照らされている薄暗い路傍。
人気はない。当然だ。
一般生徒の最終下校時間は7時で、現在時刻は8時をとうに過ぎているのだから。
いつも跡部の三歩後ろに控えている樺地も今日は先に帰っている。
ざり。
砂利を踏み締めた音を背後に聞いて、振り返ろうと歩みを止めた瞬間遮られた視界。
ドサッ、地面に落ちたテニスバッグ。
半反射的に抵抗を試みた跡部の腕はいとも容易く捕らえられた。
幾重にも重なる足音。複数人がここに、居る。
「、おい! 一体何のつもリ、ッ!!!」
ガシャンッ、と強くフェンスに押し付けられ一瞬止まった呼吸。
ぶつかった衝撃でじんじんと頬が痛む。
首後ろと両手首を力任せに掴まれて、身を捩るもびくともしなかった。
吐く吐息が震える。
掴んでいる人間はそれぞれ別人だ。
だが、周囲に何人居るのか跡部には知る手立てがない。
「――ッ、ぅあ……!」
「……こんばんは、跡部会長」
首元を制する手が遠退いたと思ったら、無遠慮に制服の襟首を引き寄せられた。
喉仏の丁度下部が圧迫され噎せ返っているところに発せられた声。
それは跡部も良く知っている人物であった。
「! てめ、……みょうじ……ッ」
「ご名答。流石、聡明な方だ」
耳元で囁かれる含み笑い。
でもそれは彼の知らないみょうじの笑みだった。
「……おい、あれを」
誰かが何かを探している音がして、それが後ろのみょうじの手に渡ったのが跡部にも空気越しに伝わる。
そして、粗雑に後ろから顎を固定されると口元に何かが添えられた。
勢いよく口腔に浸入する液体。冷たい。
「ん゛ンッ?!! ……っ……、っは……!」
「飲まないと、死にますよ?」
頑なに口に注がれるそれを飲まんとしている跡部。
そんな彼の鼻を摘んだみょうじは抑揚のない声で畳み掛ける。
その言葉通り徐々に競り上がってくる窒息感に悔しげに眉を顰めて。
ごくり、跡部は与えられたそれを飲み込んだ。
拒んだ際に溢れ出た液体がしとどに服を湿らせ、不快感は増す一方。
漸く顎を開放された時にはかなりの量を飲まされていた。
「っは、あ……ッ……げほ、ッ……っごほ……!」
「ご安心を。これは、ただの水ですので」
「……みょうじ、ってめぇ……一体、何をしようってんだ」
「直にお分かりになる事です。嫌でもね」
「ッひ、っ……、っく……」
不意に耳の後ろを舐られたことで一瞬にして全身が鳥肌立つ。
思わず漏れた上擦った声は周囲の一笑を買ったようで、跡部の頬が羞恥と屈辱に赤らんだ。
「っこ、の……てめぇら……いい加減に、ぁあッ! ……っやめ、……く……ッ」
「……まあ、止めますよ? 事が終わればですけど」
「ッな、……ぅ……ぁ……はぅ、っ……!」
「ああ……女子程ではないですが、男子も感じるらしいですね。胸って」
「……っ……は、なせ……ッ! ……っん、……ふ……っ、あ!?」
ガシャンッ。
背後からフェンスの衝突音が聞こえ、唐突かつ強引に方向転換をさせられた所為で縺れる脚。
その結果、後ろに居るであろうみょうじに全体重を預ける形となった。
しかもみょうじの片膝が丁度跡部の股を割り入るように。
不味い。
そう跡部の脳内が警鐘を鳴らした時には既に手遅れ。
近付いて来た複数の気配に全身が戦慄く。
「……ゃ、……ぁ……ッやめ、――……っ!」
「さ、存分に啼いて下さいね……? 会長」
愉悦を含んだみょうじの笑い声がねっとりと張り付いた。
***
「あっ、……も……無理ッ、ァ……んぁ、や……あ、ああっ……!」
「ご冗談を。まだまだ、いけるでしょう?」
「っふあ、ああッ……ゃ……! も、イきた……ああ、ぁ、っは」
もう、長らく熱い昂りを打ち付けられて後孔の感覚が麻痺してくる。
異なる意思を持った手が不規則に胸を弄って、悲しくも快楽に従順な中心は天を仰いでいた。
勿論そこもまた別の人間によって握られて擦られて、そこは止め処なく白濁液を滴らせる。
前を弄られてしまえば、最早跡部に抗う術はない。
更に、前を弄る人間の手によって根元を握り込まれていて、精液が塞き止められ逆流している。
それが何よりも苦しくて。
そろそろ上がる掠れた嬌声に嗚咽が交じりそうだった。
「な、ッで……っあ、ぅ……こ、なこと……っひ、ぃあ」
「……興味が湧いたんです」
「きょう、み……? ……ぁ、ッン……っ」
「これでも僕会長のこと尊敬してるんですよ。ただ」
そこで声を潜めたみょうじはどこか自嘲気味に笑った。
後ろの律動は止まったが他の手は止まらないから、散り散りになった思考を必死に繋ぎ止める。
「全てにおいて完璧な会長が快楽に歪む姿が見たかった」
「、みょうじッ……っ……ゃ……ン、あ、あッ……」
「それだけですよ。……そろそろかな」
「は……? ッ、あ?! や、待っ……待て、……ひ、ッああ、あ、っあ」
先程のみょうじの言葉がどうやらGOサインだったらしく。
一斉に手付きが今までの単調なものではなく、確実に快感を刺激するものへと変わる。
すると、急激に込み上げて来た感覚に冷や汗めいたものを感じた。
「っく、……ゃ、出る……や、めッ……ぅっあ、……ひ、ああ、あぁあ――ッ!!」
がり。
びくびくと限界間近の先端の窪みに爪を立てられて、我慢していた箍が外れた。
長いこと射精を止められていた事。
始めに水と称された液体を飲んだ事。
この二つが相俟って。
「……っは、ぁ……ぅ……ぁ、……ンっ……」
跡部はボタボタと精液を吐き出しながら黄金色の液体も吐き出した。
間断なく地面に向けて放たれるそれを周りの人間は嘲笑を孕んだ眼差しで傍観。
声なく涙を流す跡部の耳元にそっと口を寄せたみょうじは、一言告げる。
そして、全員を引き連れてこの場から立ち退いた。
薫ったそれは恥辱のプルーフ
-消えようのない現実-
(「今日の出来事は全て記録してますので」)
(翌日、顔を合わせた彼は何食わぬ顔だった)
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