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暑い、と先に音を上げたのは俺の方であった。
盛夏の頃合いは疾うに過ぎたというのに、今年の残暑は厳しい。

夏の全国大会が終われば運動部は一先ず落ち着く。
それは氷帝テニス部も同じで。
休日を互いの部屋でまったりするというのが、最近専らの過ごし方となっていた。


「忍足……ちょっと、離れろ」
「……何でや」
「いや、あのな、俺だって人の子なわけよ。暑いんだって」


だから離れて、そう肩を押す俺に対する忍足の表情は不服そうだ。
渋々というか不承不承というか。そんな態度で漸く一歩身を引いてくれた。
そうして、開いた身体の隙間に風が通り抜けてほうっと息を吐く。
いくら窓を開けているとはいえ、互いの身体を密着していれば暑いのは当然のことと言えよう。

クーラーが無いわけではないけれど、節電の波にあっさりと乗った母の伝令で使用は禁止されていた。


「あ゛っづー……」
「……なあ、」
「んー……? どした」
「キスしたい」


嫌だと突っぱねようとした口は目的を果たさずに閉口した。
ぐったりとベッドに背を預けている俺ににじり寄る忍足は至極真面目な顔付きだったのだ。
元来の押しに弱い性分と惚れた弱みで、俺が白旗を上げたのは自然な流れである。


「……ほら」
「ん……っ……、……っふ」


了承を示すや否や、膝に乗り上がり唇に噛み付く忍足。
背中に回された腕の所為で、触れる背部がじとりと汗で滲む。正直、気持ち悪い。
それでもキスに夢中な忍足はお構いなしにぎゅうぎゅうくっ付いてくるものだから困りものだ。

俺だってキスがしたくないわけではない。断じてない。
しかしながら、この通常生活を営んでいるだけで汗が湧く気温の中ではやる気も下がるというもので。


「っは、……んん……」
「……っ、――〜〜はあッ! ちょ、タンマ、あっつ!」
「……自分、暑がり過ぎなんちゃう?」
「何でお前はそんなに涼しそうなんだよ……」
「俺かて暑いわ」


けろりとした表情で言われても説得力はまるでない。
なんて意味を込めて恨めしげに睨むも、忍足は素知らぬ顔。
逆にキスを中断したためか不満の色の眼差しを返された。解せぬ。

絶対この部屋の気温は外より高いだろう。


「忍足ばっか狡ぃー…」「狡い言われてもなあ……あ、せや。なまえ、良案があるんやけど」
「却下」
「まだ何も言うとらん」
「だってお前の言う良案って、俺にとっては良案じゃねえこと多いし」


バレたか、とかなんとか呟いてるのも全部聞こえてっからな。
でもそんなとこも可愛いと思ってしまう自分は相当末期だと思う。
そう本人に言えば「今更や」なんてにやりと笑われ、再び唇を塞がれた。

暑さで茹だる俺を余所に忍足の舌は随分と活動的だ。
舌の根、歯列、歯茎を縦横無人に舐め回して、それに比例して唾液に塗れる唇。
ここまでくれば良い感じで忍足の背筋を震えるから、そこで俺がすっと腕を這わすのが一連の流れ。

流れだけれど。


「……うん、無理。離れて、あっつい」
「っ……ここまで、やっといて……酷いやんか」
「そっちが勝手にやったんだろ……」


生温い風を受けつつ手を伸ばしたガラスコップには水滴が滴っていた。
そんな休日の一時。




Endure the heat.
-まだまだ続くようだ-



(で、良案て何だったんだ?)
(一発汗をかいたらええかと思って)
(はい却下)


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