project | ナノ
気付いたら触れていた。
確か初めてのキスはそんな感じだったように思う。


「白石、」
「ん?…っ、……」


触れるまではあんなにも躊躇して大事に扱っていたというのに。
今ではどうだ。
こんなにも容易く触れて掬って嬲って、募る罪悪感。
だけれどそれを上回る程の充足感があった。

支配欲と独占欲。

そのどちらも充たしたいがために俺はそれを渇望して止まない。
そういう関係ではないのに。


「……っんん、ん!」
「…っは……ごめん、大丈夫?」
「大丈夫や…ほんま、みょうじはキスするのが好きやな」


少し弾んだ息のままちらりと俺を見上げ、けれど直ぐに恥ずかしげに目を伏せる。
頬が仄赤い。瞳が潤み揺らぐ。
こんなそそられる表情を知るのは俺だけで良い。
なんて、まるで恋人の発言のようだ。


「白石だからな」
「はは、何やのそれ」
「思わずキスしたくなるぐらい魅惑的ってこと」
「魅惑的て……、キザやな」


くすくすと面白そうに喉を震わす白石の頭を撫でる。
薄暗い他意など気取られぬよう優しく愛しげに、柔らかな髪へと指を滑らせた。
しかもその手に嬉しそうに擦り寄るものだから。
苦しくなる。そんな顔しないで。




「ん、!ぅ……、…ッ」
「…ん……っは、」




止まらなくなる。
なんて言えば既に手遅れだと言われるだろう。
付き合ってもいないのに行為だけが先走っているのだから。


「〜〜〜〜っぷ、は!…っは、ぁ……は…」
「あ、ごめん……、つい」
「唇、ふやけて、まうて…!」


焦点が定まらない瞳がとろりと俺の理性と罪悪感を煽る。
だがその一線を跨ぎ越えるわけにはいかない。
本来の一線を目前にギリギリのラインで保っているのだから、まだ我慢がきくだろう。
そう言い聞かせながら、ざわついた衝動を押さえ込むために白石の首筋に顔を埋めた。

大丈夫。これでまた暫く持つ、はず。


「ちょ、みょうじ…っ擽った…!」
「…白石の匂い落ち着く」
「……変態」
「白石限定だから安心しろ」


何をどう安心すんねん、と笑う白石の鼓動に何処と無く安心する。
まだ脈拍は急いたままではあったが温かく抱き締め返してくれた腕は何ら変わらず。
俺の黒ずんだ衝動も一時的に形を潜めた。本当に一時的に。
しかして、この香りを堪能してこの脈拍が正常に戻った頃にきっとまた。


「……ん、」
「ん……っ、?白石?」
「ふふん、仕返しやで!いつもやられてばかりじゃ割に合わん」


得意気ににやりと笑む白石は軽く降れるだけのキスを鼻先に落としていった。
更に口先にも落とし、無意識にそれを追えば人差し指で制される。
おあずけ♪と言い放つ白石は至極楽しげ。

ざわ。
無邪気なそれにまたふつりと沸き起こってしまった。
付き合ってもいないのに、この行為を平然と受け入れるこいつに。




リミット間近
-みしりみしりと軋む-



(どうしてくれようか)


×
- ナノ -