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「あちゃー…」


教室から鈍色に沈む空を見上げて無意識に溢れた。
内と外とを隔てる窓ガラスにはシャワーの如く雨水が叩き付けられている。

そういえば今日の降水確率は70%だから傘を持っていけ、と言っていたような。
テレビも母もそのような旨を言っていた気がする。
まあ、相変わらずの慌ただしい朝時に傘がどうだの気にする余裕は赤也にはない。

つまりは、傘がないために帰る手立てがないのだ。




「止む――…わけねぇよなあ」




盛大な溜め息。
ずぶ濡れの濡れ鼠で帰るのは出来るだけ避けたかった。

これが霧雨だったならば駆け出しても問題はないし、驟雨だったらならば雨宿りで済むのだが。
如何せん今日の雨はそのどちらでもなく、梅雨を思わせる長雨なのだ。
今日はさっさと帰宅してゲームをやり通す予定だった。


「折角部活が休みなのに…!」
「赤也ー?どしたよ」
「おーなまえ…見りゃあ分かんだろ」
「…今朝言ってたじゃん、テレビが」
「あーあーあー何も聞こえねー」


言われた言葉は図星そのもので、それから逃れるが如く耳を塞いだ赤也に苦笑を漏らすなまえ。
その手には一本の傘が握られている。
それに目敏く気付いた赤也が取る行動といったらただ一つだろう。

ふてくされた風に尖っていた唇は瞬く間に弧を描き、それはそれは晴れやかな笑みだった。
じり、となまえが一歩身を引く程に。


「なまえ」
「……どうせ嫌っつっても入って来んだろ」
「もち!サンキュー♪」
「はあ…」


自宅の方向が同じだったのが赤也にとっては功を奏した。
勿論それがなまえにとって功かどうかは判らないが、シャワーのような雨脚は緩む気配を見せない。



***



途切れることなく傘に衝突してくる音を聞きながら、ゆっくりと家路に着く二人。
会話はするけれど学校の休み時間ぐらいのテンポの良さは互いに無い。
崩れた天気が陰鬱な気分にさせるのだ。


「……傘小さくね?俺の肩濡れてんだけど」
「勝手に入り込んできて文句言うなし。折り畳みなんだから当然だっつの」
「そりゃそうだけどよ…ってお前も肩濡れ、」


恨みがましい視線のそれが一瞬にして引っ込んで、言われた内容は今更なもの。
寧ろ入って来ると宣った段階で想像するに余りある結果だろうに。
そうなまえの眼が語る。

そしてその言わんとしていることを察した赤也が気まずそうに閉口して、トン、と互いの肩がぶつかった。
正確にはなまえの手によって引き寄せられたのだけれど。




「……これなら、少しマシだろ」




ぞんざいな言い方と腕を引いた手付きは真逆であった。




アド-ホック
-一つ傘の下での問題-



(外の温度と反比例するように)
(そこは熱を孕む)


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