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制限時間は2時間。
月に一度。この時間に俺は酔いしれる。


「……っあ! ……ひッ、う……っ……っん、ぁ……!」
「は、っ……千里、くん……ッ」


涙でぼやけた視界の中心に茶髪の彼が居る。
汗ばんだ身体をぶつけ合って走った痺れるような快感。
頬から伝い落ちる雫が鈍く光る照明に反射して、少し眩しい。
その眩しさの中で彼と目が合った。


「なまえさっ、も……無理、っばい……は、んっ」
「ん……、俺もそろそろ……限界、かな」
「ッ、うあ……!」


ぐっとより荒く身体の中を押し開かれる感覚。
喉元が仰け反って息が詰まる。
元々こういった行為に使う場所ではないのだ。
苦痛を伴って当然。
だけれど、彼はその苦痛を取り除こうと最大限尽くしてくれる。いつも。


「……っ、大丈夫……?」
「っん、うんッ……気にせんで、よかよ……っ!」
「辛かったら、直ぐ言ってね」
「分か、とっと……ッ、ぁ、あ……!」


頬を撫でた彼の手を両手で握り締めて、この手が愛しい。
片手は俺が掴んでいるから彼は残っている片手で腰を支える。
不安定なままに揺さ振られて、近付いてくる感覚に握る手に更に力が篭もった。
それに目を細めることで応えたなまえさん。


「我慢しなくて、良いよ……っ」
「っや、なまえさんッ……と、一緒がよか、っぁ……ッ……」
「……はは、じゃ……一緒にイこうか」


緩く笑いながら彼は本格的に動くためにか太腿を抱え直し、腰を引いた。
きっと片手での律動は難しいだろう。
特に俺は身体がでかいから。

それでも、彼は決して俺の手を振り解こうとはしなかった。
むしろ力強く握り返してくれた。
それが、とても嬉しくて。生理的に流れる雫に他意が孕む。


「……は、ッああ、ぁ、ぅ……っ」


彼は優しい。
でも、その優しさを向けるのは俺にだけではない。


「っひ、ぅ、あ……ぁ、ッあああ!」
「……ぅっ……っは」


一際大きく身体を揺らして腹に撒き散らした精液。
最早後ろだけで達することが出来るまでにこの身体は開発されている。
それが別段嫌ではない。彼との行為は気持ち良いのだ。

俺の望み通りなまえさんも同時に熱を吐き出して、しかしてそれはゴムの中へ。
いつも中が満たされないことが残念でならない。
別に女子ではないのだから、もっとぞんざいに扱ってくれたって構わないのに。


「……っぁ、……ッ……」

ずるり、と中から幾分か小さくなった性器が抜き去られる。
無くなった圧迫感に生じる虚無感。ひくつく後孔。
足りないわけではないけれど。満足出来ない。

まだ、時間はあるのだろうか。
この時間に追われる感覚が俺は堪らなく嫌いで。
許可された制限時間が終われば彼は別の人にまたその優しさを惜しげもなく晒すのだ。
俺には見向きもせずに。


「は、あ……なまえさん、」
「うん? どうかした?」
「キス、して欲しか……」
「……甘えた」


きっとまだ俺は熱に浮かされた表情をしていたのであろう。
なまえさんは困った風に眉尻を下げて苦笑い。
苦笑のままに広げた腕の中にやって来た彼の首元に腕を回して。
触れた肌は湿っていた。

けれど、彼の唇は渇いていた。


「ふぁ、……んぅ……っは、」


歯列をぬるりと撫ぜられたことによる鈍い刺激と口を塞がれたことによる酸欠に脳内が霞む。
絡まる互いの舌と涎に僅かに、開いた隙間から行き場を失ったそれが溢れ落ちた。
かさついた唇を少しでも潤したくて、必死にその唇に食らいつく。


「……っは、あ……なまえさ、……も、時間と……?」
「あー……まだ、大丈夫だけど……もっかいする?」
「ん……なまえさんのたいがよかけん、癖になっとよ」
「はは、お褒めに預かり光栄です」


じゃあ、今からのは特別サービスってことで。
ウインクをしながら額にキスを一つ。
なまえさんの言動一つ一つに心が躍らされる。
けれど、彼の言う“特別”は俺にとっての”特別”では決してない。


「……ん、ぁ……はッ……あ、っ……!」
「っぅ、……千里くんの中……きつ……ッ」
「! っふあ、……っ……気持ち、よくなか……ッ?」
「、まさか。……すっごく気持ち良いよ……こっちこそ、癖になりそう」


にこ。
人当たりの良い笑みを浮かべるけれど。
所詮はリップサービス。
理解していながら吐かれる言葉が嬉しくて仕方がない。
体勢を対面座位に変えた所為で胸にかかる熱い吐息が快感を助長する。


「ぁっ、あ……っんぅ、ああ、……はぅッ」

腰に添えられた手は熱くて、しがみ付いたなまえさんの身体もやはり熱かった。



***




「……今日は、いくらになっと?」
「いつもと同じで構わないよ。千里くん学生だし」


お得意様兼学生割引で半額、なんて言って調子の良い言葉を並べて消えていくお札。
法外ではないが安くはない。
でも、良いんだ。この瞬間を得るために一ヶ月を節約しているのだから。
それに、他に使う金額だって高が知れている。


「じゃ、ここ10時チェックアウトだから」
「……分かってるばい」
「ん、そうだね。では、来月もまた宜しければご贔屓に」


甲斐甲斐しく投げ出した手の甲に唇を落として、颯爽と彼は出て行った。




異質な空間に据え置いた遺失物
-結局は住む世界が違うのだ-



(“初めて”とつくものは全て彼に教えてもらった)
(でもそれは彼の思惑の外側の出来事で)
(だから俺はこの想いを呑み込んだ)


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