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ふわり、と香った香ばしい匂いに釣られてみょうじは目蓋を抉じ開けた。
快眠とは言い難い。身体はまだ睡眠を訴えている。
けれど腹の虫が眠りを妨げるのだ。

仕方ないと言わんばかりのゆっくりとした動きで身を起こしたみょうじは、真っ直ぐとダイニングへと足を向ける。
そこには匂いの発生源が居るはずで。
朝一番にその顔を見るのが半日常であり、むしろ日常になることを胸の内で密やかに望んでいた。


「……はよ」
「おはようさん、もうすぐ朝食出来んで。顔洗ってきいや」
「…ん」


部屋着として使っているみょうじのスウェット上下にこれまたみょうじのエプロンを身に付けて、白石は緩やかに微笑んだ。
いつもはしゃんとしているみょうじが唯一気の弛む瞬間が寝起きである。
だから白石にとってこの時間が何よりも好ましい時間であった。

自分だけが見られる特別な彼の表情。嬉しくて堪らない。


「ふあぁあ…ねむ……お、美味そー。流石白石」


好きな人のために尽くしたいと思うのは男女共通ではないだろうか。
そう思っている白石ではあるが、全員が全員そうだとも限らないので強いて口にしたことはない。
取り敢えず俺は尽くしたい、から尽くす――と今日まで半同棲生活を送っていた。


「お褒めにあつかり光栄です。さ、残さず食べてや」
「勿論――いただきます」


律儀に手を合わせてから食べ始めたのを見ていると図らずも胸がほっこりする。
みょうじはいつもとても美味しそうに食事を平らげてくれるのだ。
だからこそやりがいがある、そう白石は口元を緩ませ自身も食事に取り掛かった。
我ながら美味い。

自画自賛で舌鼓を打っていると「あのさ、」やけに真剣な色のみょうじと視線が交わる。


「俺ら付き合って5年だろ」
「おん」
「そろそろ頃合いだと思うんだ」
「?…は、」


しん、空気が凪いだ。
はたりと互いの手が止まったために部屋に鳴るのは時計の秒針のみ。




「一緒に暮らさないか」




はっきりと澱みなく。真っ直ぐと白石をみつめてみょうじは言い切った。
言い切ったまでは良かったのだが、その後に恥ずかしさが込み上げてきて徐々にみょうじの顔が赤くなってくる。
そしてぽかんとしていた白石もそんな彼の表情を見て漸く言葉の意を理解したのか。
瞬く間に茹で蛸になって、ばっと俯いて小さく声を発する。

つまりは異性間でいう、プロポーズと同位であった。


「お、俺でええん…?」
「ッば、か…!お前じゃなきゃ意味ないだろっ」


そして互いが真っ赤に染まり上がるという。
付き合って5年とは到底思えないなんとも初々しい雰囲気が流れたのだった。




まるで夢のような
-浮かぶ笑みが抑えられない-



(これからも、宜しく)
(っこ、こちらこそ…!)


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