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※ 痴漢プレイ




ある晴れた休日のこと。
珍しく両者ともに部活がない日、二人は電車に乗っていた。
目的地は恐らく終点。
そうあくまでも目的地はそこというだけであって目的がそこにあるわけではない。


「……っぁ……あ、……ん!」
「しーっ……周りにバレちゃいますよ」
「無理、言うなっ……ッふ、ぁ」
「……ふー……バレて捕まるの僕なんですから、」


気を付けて下さい、ぐっと顔を近付けて低く囁く。
その顔付きは言葉とは裏腹に至極愉快そうなもので、堪らず幸村の肩が跳ねた。

幸村よりも大きな手の平が全身を、しかしながら主に下腹部を這い回る。
自ら注意を促しておきながらその弄る手は止めないのだから可笑しな話だ。
けれど反発を口にしようにもそのような余裕は既に削がれ、くすくすとした笑いが耳について只でさえ熱い身体が更に熱を孕むものだからどうしようもない。

吐き出す瞬間のあの倒錯的な快楽が欲しくて、でも吐き出したくなくて。
矛盾した感情にも容赦なく刺激の波はやって来る。
本来は排泄を機能としたその器官へ挿入等という真逆の行為。
少しでも気を抜けば中に入れられた機械が重力に従って落ちてしまいそうで。

それでは意味がないのだ。


「……っん……ぁ、ぁッ……!」
「ね、気持ち良いですか? せーんぱい」


にやにやとしたその笑みはみょうじらしくなく低俗なそれで、ぞくり、幸村は腰が粟立つのを感じた。
普段の澄ましたものと違う、雄独特の欲塗れな瞳。
その視線を受ける度に身体の芯から疼いて堪らない。

それは所謂反射のようなもので、その実は刷り込みである。
幸村自身の身体をもって何度も経験したこと。


「ひッぁ……や、強くす、な……っはぁ、」
「……ふふ、気持ち良さそうで何よりです」
「ぁ、ッん……っ……は、っみょうじ……!」
「もうギブアップですか? 早くありません?」
「ッぅ、ぁ……も、っ無理……無理ぃ……、」


戦慄く下肢は既に幸村の身体を支える役目を果たしておらず、添えられたみょうじの腕に縋りついて漸く立っていられる。
徐々に本能に塗り潰されていく思考の中で思うのは"吐き出したい"只それだけ。
確実な箇所を徹底的に避けた愛撫と単調に震えるだけの玩具は目的達成には遠く及ばなかった。
眼瞼にこれでもかという程涙を湛えどんな些細なことでも伝い流れてしまいそうだ。


「仕方ないですね……イっても良いですよ。ただし、ここでご自分の手で慰めてイって下さい」
「――――、ッ……!」


突き付けられた条件に驚愕のあまり閉口。否、絶句の表現が正しいかもしれない。
そして案の定――はら、と大きな滴が火照った頬を滑り落ちた。

窺うような視線で周囲を見回し再度懇願するみたいにじっとみょうじを見つめる。
けれど素気無くもみょうじは笑みをもってそれを一蹴。
無言の応酬を数秒間続けるも先に音を上げたのは幸村の方だった。

焦れた風に腰を揺らし震える白い指先がきちんと整えられたズボンのベルトにかかる。
それをにやついた顔付きのまま傍観するみょうじ。
彼の表情にやはりというか背筋が戦慄き、噛み締めた歯の隙間から熱い吐息が漏れた。

所詮は惚れた方が負け、ということ。


「……っン……ぁ……、ァッ……」
「……頑張る先輩のために後ろの玩具、切りますね?」
「え、ぁ、……ふ、ッぅ……――、」


ブルブルと震えて自己主張していた人工物の電源が言葉通りに落とされて、願ったり叶ったりのはずが。
今のタイミングでは単なる意地悪にしか幸村には感じられなかった。
ついでに、今の今まで決して止むことのなかった焦れったくもしつこい愛撫が止まった。

どうやら目の前の後輩はとことん苛め倒す心積もりらしい。

決定打には成り得なくとも、後ろの玩具からも少なからず快楽を得ていたがために手淫だけでは足りず。
ここが車内だということも相俟ってバレないように、等という控え目な動きでは絶頂は程遠い。
中々迎えない高みに一時元の状態になりかけていた幸村の双眸は、またしても溢れ落ちてしまいそうだ。


「……相変わらず良い顔をする人だ」
「……っ……や、……みょうじッ……足りな、! ……ッん……はーっ……」
「周りの奴らに曝すのが勿体無いくらいです」
「――――……ッ! あ、ぅ!」


うっとりとした表情で幸村の俯きがかった顎を捉え、無理矢理視線を交わらされる。
その羞恥に奥歯を噛み締めることで耐えるけれど無意味で、恍惚に染むみょうじの顔には場違いながら惚れ惚れしてしまう。
それは声も同質のもので、思わず弄っていた手に力が入る。

当然、その反動は己に振りかかってくるわけで。
じりじりとした煮え切らない熱に苛立ちさえ覚えそうだった。


「あ、も……焦れ、った……――っはぁ……早、く……!」
「駄目ですよ。ちゃんと自分でイかないと、」


俺のはあげられません、と憎たらしいまでの晴れやかな笑み。
その笑顔に幸村は弱いと知っていながらみょうじは敢えて浮かべ自慰を強要する。
間も無く終点だ。事務的な台詞を読み上げる駅員の声が遠くで聞こえる。

恨みがましくけれどどこか恍惚とした眼がみょうじを見上げ、ほうと息を吐いた。


「今日は、随分と……意地悪…なん、っだな……っ」
「それがご所望だったんでしょ? 幸村先輩は」
「……ッん、! は、……ん……」
「ほら、もうすぐ終点ですから。頑張って」
「っふ、……ァ、っ……、……く、ぅ、ぁ……――!」


つつつ、と顎のラインをなぞる手付きに肌が鳥肌立ったまま、最終手段として弱い鈴口に指の先を押し付けた。
片手しか使えないのだ。
後ろの袋はどう足掻いたって触れることも叶わない。

だからこれが片手で致す奥の手である、と纏まりのない思考の中で幸村が弾き出した結論。
そしてそれは存外的外れではなかったのである。
背中が仰け反り無防備にも喉をみょうじの眼前に突き付ける形を取って、幸村は漸く手淫の手を止めた。


良くできました。


幼子をあやす風な口振りは決して馬鹿にしたものではなく、本心からの労いである。
そして、ちゅ、なんて聞いている方が恥ずかしくなるような音を立てて、触れるだけのキスを落としたみょうじは実に満足そうに口角をつり上げた。


「……さ、幸村先輩。駅に着きましたよ」
「、ん……」


引かれた手は今までの言葉とは正反対に優しく温かなもので。
今日もまた年下の彼を許容してしまうのだった。




tolerancerise
-深く受け入れる-



(底のない甘さが癖になる)


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