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その日もいつもと同じ日であった。
愛しの小春とのラブルスをやりつつ、朝練を終える。

着替えの合間に謙也と昨晩やってたお笑い番組の話題で盛り上がり、白石に部室を追い出される。
そして普段通りラブラブ漫才をして廊下を笑いの渦に巻き込む。

そんな朝の風景。これが俺の日常。
同じであったからこそ、その行動は予測不可能なものであった。


「ユウジ」
「あ? 何や」
「……」
「……? 何もないんやったら、そこどいてや」


入口を塞ぐように行く手を遮るなまえに対して、至極当然なことを言ったつもりだったのだが。
憮然とした表情のなまえは動かない。


「どきや」


若干命令口調なのは俺が苛ついている証拠。
そのことを知っているはずだろうになまえは無言無表情で出て行ってしまった。
無言の圧力はそれもあいつが苛付いている証拠。
意味が解らず自席に腰を下ろしてHRを待っていると、ポケットに突っ込んであった携帯が震える。


――――もう我慢の限界。お前が行動を改めるまで、セックスしないから




「(……っな、なな、何でこんなこと言われなあかんのやッ!)」


突飛過ぎて脳内を占めたのはショックというよりはムカつき。
いつの間に終わっていたHRなぞ興味を向けず、荒々しく携帯をしまい席を立った。
行き先は勿論なまえのところ。きっと奴は屋上に居る。



***



なまえは俺が睨んだ通り屋上で横になっていた。
相変わらず気に食わなさそうに眉間に皺を寄せ、曲を聞いている。
やはり怒っている。


「(……めんどくさ、)なまえ」
「……」
「……何やの、あのメール」
「…………そのままの意味だけど」


つっけんどんな物言い。
折角わざわざ俺の方から来てやったというのに。
ごろん、と俺に背を向け完全に喧嘩を売っている。

理不尽ななまえの態度にぶちんと音が鳴った。
無遠慮にイヤホンをぶち抜き、押し倒す格好でなまえを仰向けにする。


「自分、ええ加減にせえよ」
「……」
「意味も分からず八つ当たりとか、迷惑――ッた?!」
「意味も分からず、ねえ……」


胸倉を掴んで怒鳴っていたら突然その腕を掴まれ、逆にコンクリートに押し付けられる。
形勢逆転。慣れた立ち位置。

偶然か故意的か、ぐいっと顔を近付けられた際にぐっと膝で股にあるそれが圧迫された。
そんな雰囲気ではないから堪えられた、が。
少し、本当に少しだけ腰が震えてしまった。

更には真っ直ぐと俺を見てくるなまえの眼差しが冷たくて、背筋が冷える。


「条件追加。自分でシコんのも禁止」
「は、あッ?! おま、なに調子こいて……!」


つい口走った奴への煽り文句もその表情に吸い込まれる。
喉が、ごくり、唾を呑み下した。
そして、ここから俺となまえの意地の張り合いが始まったのだった。



***



最初の数週間は問題なく過ごせた。
今度いう今度は絶対俺の方から折れてやるもんか、と息巻くぐらいに鷹を括っていたのだ。
喧嘩で折れるのは専らなまえの方であったがこの際棚上げにしておく。
兎に角も、俺はなまえとセックスせんでも自分でシコらんでも大丈夫だという自信があった。

しかし、それはものの見事に打ち砕かれている。


「……っ……」
「大丈夫? ユウくん」
「っだ、大丈夫やで、小春……!」


折角愛しの小春が心配してくれとんのに、碌な返事が返せない。
下腹部に集まる異様な熱に上手く思考が纏まらないのだ。
要因は嫌という程に心当たりがあった。

なまえからの言い付けと、さっきなまえと擦れ違ったこと。

喧嘩している手前目線なんか合わせられるはずもなくて。
俯き加減に擦れ違った。トイレにでも、行ったのだろうか。
鼻を掠めたなまえの残り香。久しく嗅いでいなかった匂い。
すると途端に条件反射のように身体がぞくりと震えたのである。


「(あ、かん……っも、限界や……!)」


矢継ぎ早に保健室に行くと小春に告げ、くるりと脚を教室とは逆方向に転換する。
最早、意地だとかプライドだとかの問題ではない。
身体の中をぐるぐると掻き乱すこの衝動を吐き出したかった。



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