部活内での戯れの延長線上。
本当にそれだけだった。
だけれど存外自分が想定していたものよりも数段良い、というかは面白い反応が返って来たのだ。
その時のなまえの表情は相当に意地が悪いものだっただろう。
そして今も。
「ッなまえ、……っ……ちょ、くすぐった……!」
同様の表情をしているはずだ。
因みに何をしているかというと、台詞から分かる通り擽っているのである。
ただし、その方法は単純に脇腹を擽るというものではない。
今二人は所謂世間一般で言われている恋人繋ぎをしているのだが、その指と指の間を触るのだ。
焦らすようにゆっくりと。
感じるように表皮だけを。
触れるか触れないかという絶妙の力加減でなぞる。
それだけでも佐伯は過敏に肩を跳ね上げ息を乱した。
「も、! ……触り方、エロ……ッん」
「はあ? 別にこんなん普通だろ。サエが敏感過ぎるんだって」
「そんなことな、っく……、……ッや! ……っああもう、触るの禁止!」
「……ふーん、あっそ」
ばっと振り解かれた手が宙に浮いて、なまえは対して気にした素振りもなく引っ込めた。
対する佐伯はというと「ぁ、……」と名残惜しそうに戻されたなまえの手を見詰めていた。
無言のまま帰り道を進んで、段々と落ち着きがなくなる佐伯。
「あ、の……なまえ?」
「何? 腹でも減った?」
「そうじゃなくて! ……その……手、……繋ぎたいなって……」
「……へえ? まあ、良いけど」
数分前に自分から触るの禁止と言っておきながら、と内心思ったが差し出された手には抗えない。
舌の根が乾かぬ内にと言うにも程がある。
なんて軽く自己嫌悪しているとまたなまえの指がするりと動いた。
それはさっきと同様の動き。
全身の毛が逆立ってまたもや肩が跳ねる。
慌てて見上げた佐伯が見たのはニヤリとした笑みだった。
「〜〜〜〜っ、なまえ!」
「サエが手を繋ぎたいって言ったんだろ」
「それは、そうだけど……っぁ……、ぅ……ッ」
「嫌なら解いても良いぜ?」
そう言い終わるや否や絡めた指を外そうとするものだから、阻止すべく佐伯の指が確りとなまえの手を握る。
その焦った佐伯の姿に含み笑いを溢したなまえ。
愉快、そんな言葉が正に当て嵌まるような雰囲気に佐伯の唇が僅かに尖った。
「……っ、……意地悪、ッ!」
「何とでも」
「や、っ……なまえ、ここ外、ッぁ!」
「大丈夫、人なら来ねぇって」
「……っ……、……ん……ッ」
繋いだ手を引き寄せて、なまえの口が佐伯の白い首筋に噛み付いた。
噛み付いたとは言うものの勿論歯は立てておらず、甘噛み程度。
それにさえも佐伯の口からは情事を思わせる弱々しい声が漏れる。
一頻り遊び終えてなまえが満足した頃にはすっかり出来上がった佐伯が涙目で睨んでいた。
「、……馬鹿ッ……!」
「ごめんごめん。でも、サエだから弄りたくなるんだって」
「っ……! ほんと、なまえって……狡い……」
狡いよ、そう再度呟いて目線を下へ落とした。
それは熱い頬を覚られたくないが故の悪足掻きに過ぎないのだけれど。
D-structure
-結局彼に首ったけなのだ-
((こんなんじゃ嫌わ(れ)ないし))
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