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「(……ムカつく)」


ガシャンガシャン。

溶けかけた氷をストローでつついて、逃げられる。
冷たい滴が飛び散る。
笑い声とか歌う声とかが絶えず周囲から鳴り続けて、五月蝿いったらありゃしない。
苛々を隠さずにジュースの中身を全て呷ると、溶けた氷と混ざって薄まった液体がひどく不味かった。


「次なまえの番やでー」
「おー……あ、光マイク取ってや」
「……どぞ」
「さんきゅ」


ちら。
なまえさんが俺を視界に入れて、その瞬間だけ心が満ちる。

けれど、それも一瞬のことで歌い出した美声に沸き上がる黄色い歓声。
あの人に群がる女達。ああ、鬱陶しい。
なまえさんの隣はけばけばしい女で俺の隣は謙也さん。何でやねん。


「……何不貞腐れとんねん」
「は? 別に不貞腐れてへんし」


ガシャンガシャン。

空になったグラスには大きい氷しか入ってない。
それでもこの動作は止めず、氷をつつく音は耳に心地好くも腹立たしい騒音に紛れた。掻き消された。


「なあなまえー、次こそうちと歌ってーな」
「んーせやなあ……あ、俺ちょおトイレ」
「!」
「ええー……早よ戻って来てやー」
「はは、行って来るわ」


横から伸びてきた腕をするっと躱したなまえさんが片手を上げて出て行った。今だ。
入口のドアが閉じ終わる前に俺も立ち上がって、隣の謙也さんが「き、急にどしたん?」と驚いた声を発する。
トイレっすわ、小さな返事は辛うじて謙也さんにだけ届いたようだ。



***





「っ、はあー……」
「……なまえさん」
「おお、光……」


なまえさんは目を閉じ少し疲れた風に流し台に手を付いていた。
声をかけるとへらりとした笑みを俺に向け、安堵の表情を浮かべる。


「光、」
「っちょ、……!」
「……すまん、も少しこのままで」


引き寄せられた先は彼の胸。
腕が力強く背中に回され、呼気が耳元を掠める度に心臓が急く。
更に、なまえさんの匂いが堪えていた何かを刺激する。

あー……あかん。ムラムラしてもた。


「なまえさん……」
「んー? どないし、っ?!」
「……ん……っ、は……」

俺の呼び掛けに窺うよう覗き込んできたなまえさんの頬を掴んで、その乾いた唇に自身の唇を押し付けた。
突然の行動に目を丸くさせている彼などお構い無いににゅるっと捩じ込んだ舌。
動かない舌を煽るように歯列をなぞり、舌先をつついたり撫でたりを繰り返す。

そこで漸くなまえさんの意識は戻ったらしい。
引き剥がすみたいに両肩を押され、渋々だけれど唾液塗れの唇を離した。


「……っん……何、……」
「ッ何は、こっちのセリフや。いきなり何やねん」
「シたい」
「は? ……え? ええ?」
「今めっちゃシたい気分なんですわ」


せやから、抱いて。
強請るように首に腕を回して囁けば、熱を持った吐息が耳にかかる。
よし、後一押し。


「っ、あかん……! ここどこやと思ってんのや」
「共同トイレ」
「せや、……人来るやろ。あかんわ」
「……見られなええんやろ」


思いの外強情だったなまえさんを半ば自棄糞に空いてた個室に引き摺り込む。
狼狽している彼を無視して施錠、再び形の良い唇にかぶり付いた。
今度は遠慮なんかしないで下半身にも手を這わし、僅かではあったが反応しているそれにほくそ笑む。


「……っは……、これでも……あかんの……?」
「ッ……あ、かん……光をこないとこで、抱きたない」
「――……、しゃあないっすね」


この言葉に俺が引いたと勘違いしたのだろう。
ほっと胸を撫で下ろしたなまえさんに内心で謝り、俺は強硬手段に出た。
その気がないんならその気にさせるまでや。


「! 光ッ、?!」
「大人しくしとってください……、ん……っ……」
「ちょ、止め……ッぁ!」
「ん、む……、……っ……ふ……」


自分でも驚きの手際の早さで微妙に反応しているなまえさんのものを取り出し銜える。
なまえさんの気持ちは嬉しいけど、今はそんな優しさはいらんねん。
口に含んだ瞬間にビクッと跳ねて、艶っぽい声が腰に響いた。

早くその気にさせて、これが欲しい。この人は俺んのや。

少しずつ先っぽから溢れ出てくる精液を下から掬って、裏筋も筋に沿うみたいに撫で上げる。
段々と増していく硬さと荒くなるなまえさんの呼吸。
どんな表情をしているのか気になって舐る動作は止めずに見上げた。


「……ッ……、ぅっ!」
「! ん、ぅ! ぁ……は、……」
「も、……自分、エロいわ……っ!」


視線がばちりとぶつかった瞬間に銜えていたものが大きくなって。
なまえさんは眉間を悩ましげに寄せながら俺の頭を掴んだ。
びくびくと震えるそれは限界が近そうで、だめ押しに更に早く出し入れを繰り返そうとした時。




「なまえー?」
「居るんー? 遅いでー」
「「!!」」




女達の声が聞こえた。
ッチ、どこまで邪魔すれば気がすむねん。
意識を外に向けたその一瞬でなまえさんの思考は元の状態まで戻ってしまったらしく。
銜えたそれを離すように手が頭を押す、が俺はその指示に反して口淫を再開した。



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