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激しく打ち鳴らすドラムと身体の芯に響くベース。
心地よい音程でリズミカルに鳴るピアノ。仕上がりは上々。
イントロが終わって電子的な歌声が入ってきた。

それを一心に聴き入るなまえさんの横顔に胸がドキドキする。
この人は音に耳を傾け歌詞に目を向けているというのに。
俺はただ聞き流すだけ。


「……うん、相変わらず良い曲ですね」
「ども」
「何回か練習しても?」
「勿論です。どぞご自由に」


PCの前を譲って俺は自身のベッドの上に座る。
最初は音とりから。
次に鼻歌程度に軽く歌い出して、真面目なその空気に喉が鳴る。
なまえさんは某動画サイトの有名歌い手で腰にくる低音が売りだ。


「――……、―……――」
「……っ、……」


動画を通じて知り合ってからそろそろ2年、付き合い出して1年が経とうとしている。
最初はその声に惹かれ、だけど今なおなまえさんの声に慣れない。
なまえさんの声はドンピシャで俺のツボを突いていて、聞くたびに身体が熱を持ってしまう。

段々と鮮明になっていく歌声に立つ鳥肌。
真剣な後ろ姿を見つめながら、大きく息を吐き倒れ込む。
漏れる吐息が不審に思われないよう口元を手で塞ぎつつ目を閉じた。


「(あ、かん……やっぱ、ええ声や……)」


真っ暗な視界の中で鼓膜を震わす低音。腰が痺れる。



***



朧気な意識の中で後ろから声が聞こえる。
俺の、好きな声。


「――……る、く……かるくん……」
「、っ! ……ぁ、」
「眠っているところすいません、一応録ったから確認、……光くん?」
「ッ、や……なまえさ、そこで……っ、喋らんとって……!」


ぞくり、と走る感覚。
恐らく耳元付近に居るのだろう。
なまえさんの声がダイレクトに伝わり過ぎて声が否応なしに震えてしまう。
身体に上手く力が入らへん。


「……耳弱かったですか?」
「、ちゃう……ぁっ……こ、えが……ッ」
「声? ……ああ、そういう」
「ッふあ! や、」


珍しく不敵な笑みを浮かべたなまえさんの唇が耳元に寄せられて、低く囁かれる。
それに非難めいた視線を向けても、ただ微笑み返してくるだけで動く気配はない。


「光くん」
「ぁ、ッ……、っ……」


優しく柔らかに呼ばれて、くらりと感じた目眩。
さっきまで意識していた所為か今まで以上になまえさんの声に中心が熱くなる。


「……や、……ひ、ぅッ……」


気にすまいと必死に目を背けるのだけれど、高まりつつある感度に耳への刺激は強過ぎて。
びくっと過剰とも言える反応を返す俺になまえさんは笑う。耳元で。


「光くん」
「ひ、ぁ、ぁ……っん」
「ここ、もう凄いことになってますけど」
「や、やって……ッなまえさん、の……っ……声、好きやもん……!」


ここまで来たら否定するのも馬鹿らしくなって開き直る。
すると息を飲む音が聞こえぎゅっと抱き締められた。
ばくばく、五月蝿く喚く鼓動が聞こえてしまいそうで恥ずかしい。
だけどおもむろに動いた手付きに喉が戦慄き、さっきまでの考えがぶっ飛んだ。


「んッ、ぁ! ふ、……ッぅ……っ、なまえさ……!」
「ねえ、光くん。今日の曲、珍しくがくぽの和風ロックでしたけど」
「は、っはい……ッ……ぁ、んん……」
「あれ……わざとですか?」
「あ、ぅッ! ……、やっ……なまえさん……ッ耳、ややぁ……」


既に半泣き状態で身を捩る俺になまえさんが含み笑いで返す。
本当に面白気に。
押し返そうと肩に添える手が力無く震えて、思考がぐらぐらと揺らいだ。

脳内に反響するなまえさんの声。
今日はこんなことをするつもりは全くなかったのに。
何てことない呼気でさえ反応してしまう。


「……っ……は……ッん、ぁ……」
「……光くん」
「んっ、な……すか……ッ、」
「ごめんなさい、止まらないかも」


横目に見たなまえさんの表情はすまなさそうで、でも確かに欲情していた。
やんわりと動く指が耳の淵をなぞって、腰が跳ねる。
その刺激に更に喉仏や下肢が跳ね、結局はこの人の良いようにされてしまう。

首や背中に降ってくる唇がくすぐったく、気持ち良い。
キスの合間に衣服が寛げられて、いよいよもって意思を持った手が後孔を弄り出した。
腰だけを持ち上げた体勢への恥ずかしさと後ろへの刺激を真っ白なシーツを握り締めることで耐える。


「あ……っ……は、ぁっ……なまえ、さッ……!」
「あ、こら。息を止めない」
「やってぇ、んっ……ぅあ、あ……! ぁっ……、ふ」


ぐち、中へ入れられた数本の指がバラバラに蠢くことで鳴る粘着質な音。
異物感に図らずも下腹部に力が込もってその度になまえさんの指を締め付ける。
中だけでなく耳へ長々と続けられた刺激に身体の奥が疼いて仕方無い。

ふと、上に覆い被さっているなまえさんの男らしい手が視界に入って。
その手に震える自身の手を重ねた。
それが挿入の合図。
流石心得ているようで、再度啄む様なキスを背中にしつつ俺の腰を抱え直す。


「力、抜いてください」
「……っん、! ……ッ……、ふ……ぁ、ぁっ……なまえ、さん……っ、」


不安定な浮遊感。息が詰まる圧迫感。
どっちも俺が望んだ結果だけれど、やはり耐え難く視界がボヤける。
相当締めているのだろう。
苦しそうななまえさんの吐息が耳にかかって。
また、中をキツくしてしまう悪循環。


「ひかるくん……ゆっくり、息吐いて……?」
「や、む……りっ……ん、は」
「、ひかるくん」
「ひ、ぅッ……っ……ああッ!?」


不意に強く手を握り返されれ、狼狽している間に多少強引に深く突き刺さった。
急な刺激に身を固くするも間髪入れずに、後ろから断続的に突き上げられて意図せず声が漏れる。


「あっ……ふぁ、あ、あぅッ……!」
「く、っ……、ン」
「ッァ! 、や……んぁ、あ……っ」


律動の合間に齧られた耳朶。
と同時にそそり立つ前も弄られて、一気に与えられる刺激に思考が散らばっていく。
頭ん中がぐちゃぐちゃになりながら身体だけは確実に絶頂に向かってて。


「やあッ、ぁ……っも……、っんん……なまえさ、……ぁ……!」
「ん……一緒にイきましょうか」
「……っあ、ん――……ひッああ!」


ふっと耳に息を吹き掛けられたのを契機に全身が跳ねて。
吐き出した白濁液。
そして「可愛い」なんて言う低く甘い声色に痺れた。




愛染
-霞んで浸透-



(……どうですか?)
(……っ、相変わらず上手いっすわ)
(ふふ、顔真っ赤)


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