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「、はあ……」
「……」
「……はあああ「お前さっきから何やねんッ!」


スパンッ! という小気味良い音を鳴らして謙也が俺の頭をハリセンで叩いた。
つか、お前そのハリセンどこから出してきてん。
なんてどうでも良い事を頭の片隅で思いながらじと目で謙也を見やる。

何で今ここに居んのがなまえくんやなくて謙也なんやろ。

すると俺の考えてることが伝わったのか奴は頬をひくつかせていた。


「そっっんなにみょうじがええんならみょうじを誘えばええやろ! つか、人の顔見て溜息吐くな!」
「自分誘う前にぎょーさん誘ったわ! でも、でもッ」
「何やねん」
「今日は家でごろごろするんやって、聞かんくて……っく」
「……そら、休日ぐらい家に居りたいわな」


そう言って遠い目をする謙也、って何なまえくんのこと知ったかぶっとんねん! しばくで!
俺やって付き合う前やったら休日は家で過ごしとった。
一歩街を歩けば逆ナンされるからな。ほんまにあれは苦手や。
せやけど、なまえくんと一緒に出掛けられるんやったら話は別やろ。
一緒に街に出掛けて買い物してお昼を食べて話に花を咲かせて花を咲かせて。
そのまんまお持ち帰りコースやろ。そこからの、ベッドイン! 夜のイベントは長いんやで。


「……白石、鼻血出とんで」
「おっと、あかんあかん……つい脳内でデートプラン考えてしもた」
「……デートプランで何で鼻血出んねん」
「お前ほんまKYやな。俺となまえくんの仲に割り込むなや」
「理不尽!」


大袈裟に叫んだかと思ったら思いっきり仰け反って天井を仰ぐ。
謙也のリアクションはいつ見てもオーバーや。
ほんまに目の前に居るのがなまえくんやったらどんだけええか。
と、そこまで考えてまた溜め息一つ吐き頭を振った。

休日ぐらいなまえくんの意思を尊重するんや、って決めたやろ蔵ノ介!

俺にも息抜きが必要なのと同じ様になまえくんにやって息抜きは必要なはず。
俺が傍に居ったら息抜きが出来ないのなんて重々承知してる。悔しいけれど。
でも。


「……他に、分からんもん」
「? 何か言うたか?」
「別に。ほら、早よ食べんと冷めるで」
「せやな、って白石もう食べ終わったん!?」
「自分がオーバーリアクションしとる間にな」


少し呆れた風に言ってやれば、謙也は早々にがっつく勢いで食べ始めた。
そんな単純な行動を微笑ましく眺めて不意に窓の外の光景が目に飛び込んできた。
俺の知らん男と歩くなまえくんの姿。
見間違えるはずがない。あれはなまえくんや。




「な、んで……居んねん」
「……ん、く……白石? どないしたん」
「あッの男、誰やねん……!」
「はあ?」




すっとボケた謙也の声にすら苛立ちを感じて。
心の内から沸き起こる衝動感情のまま立ち上がった。
前から狼狽した声が聞こえた気がしたが今はどうでも良い。
「謙也、立て替えといてや!」を捨て台詞に俺は店を飛び出しなまえくんの許に走って行く。

俺の姿に気付いたなまえくんが表情を強張らせたが、気にしない。


「なまえくんッ、何でここに居るん!?」
「えーっと、あー……不可抗力っつーか強制労働っつーか、うん」
「ちゅーか! この男誰やねん!!?」
「……兄貴、この人誰」
「あー……学校のダチ」
「ダチやないやろ! 俺っちゅー恋人が居りながらぁ! 兄貴って何やねん! 兄貴ってぇ……ん? 兄貴?」
「ども。みょうじなまえの弟です」


ぺこり、小さく頭を下げたなまえくんの弟だと名乗る男。
きっと怪訝そうにしているであろう顔のままその男の顔をじっくり品定めする。
愛想笑いの一つも浮かべない表情。
顔を近付ける俺を引いた風に見返す眼。
なんていうかなまえくんにというよりは財前に似た雰囲気だ。


「……ほんまになまえくんの弟さんなん?」
「はい」
「ほんまのほんまに?」
「疑り深いな……本当だっつの」
「やって、全ッ然似てへんやん!!」
「……似てなくてすみませんね。てか兄貴、早くしないと売り切れるんだけど」


あああ、そのふてぶてしい態度も財前そっくりや!
お前ほんまは財前の兄弟か親戚やろッ、なんて口が裂けても言えるわけもなく。
そうだったな、と頷くなまえくんは俺には決して向けない穏やかな表情をしていた。




「弟の買い物に付き合わされてんだ」




だから、ごめん。
そう罰が悪そうに言ってきたなまえくんにこれ以上怒ることは出来ず。
去り際に見た横顔がいつになく柔らかいもので、確かに俺は疎外感を感じたのだ。


「白石おま! 一体何やね……白石?」
「……何や」
「いや、えらい不ッ細工な面しとるから」


いつもの爽やかスマイルはどしたん。
なんて場違いな言葉と笑みを向けて来るから、そのド派手な金髪頭を叩いてやった。




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(俺の爽やかスマイルが見たかったら金払えやー!)
(意味分からん! つか、お前が金払え! 880円!)




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