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あいつが居ない登校、普通のことなのに新鮮です。
俺も朝練があることを良いことに毎日家に押し入っていた白石。
それは、年中無休かと思っていたのだが。杞憂だったらしい。
兎にも角にも、隣で休むことなく発せられるマシンガントークがないだけでこんなにも。




「静かだ……!」




らしくもなく感慨に耽っている間に掴みの門は過ぎたようだ。
俺の心がやさぐれる事なく部室に来たのなんて、何週間振りだろうか。
本当に静かで平穏だった。


「あれ、みょうじ……今日はやけにすっきりした面しとんな」
「へ? ああ、今日は白石が来なかったんだ」
「へえ……珍しいこともあんねんな。今まで毎日かかさずやったやろ」
「そうそう、俺的には嬉しいんだけど……嵐の前の静けさっていうか……」
「んー……何かの前兆とか?」
「怖いこと言うなよ!」


からからと笑い飛ばしながら部室を出て行った部長の背を見送って、俺も着替える。
そして、久し振りに万全の体調で朝練に臨むことが出来た。
恐ろしいぐらい順調な一日の始まり。うん。何か怖い。

しかして、俺の感覚は間違っていなかった。
朝練が終わって教室に着いて、携帯を確認した瞬間俺の背筋に戦慄が走る。
新着メール10件。
しかも全ての差出人は「白石蔵ノ介」。
普段多くても5件を超えたことがない俺にとってその数は未知の領域。
恐る恐る1件ずつ中身を確認していく、が。


「短かッ! はあ? ……こんなんでメール寄こすなよ」
「どげんしたと? そげん深か溜め息っちゃ吐いて」


深々と吐いた息は重たく隣にいた千歳にまで聞こえたらしい。首を傾げられた。
珍しい隣人(朝からは余り見かけないのだ)にこっちがどうしたと聞きたいが、その言葉を飲み込む。
簡潔に事の事態を説明すると「白石らしかぁ」と納得顔された。
因みに、白石から10件ものメールがきていたが要約すると奴は風邪を引いたようだ。


「行ってやらんとね?」
「誰が行くか」
「冷たかね。ま、そるはそるでみょうじらしかったい」


態とらしく肩を竦める千歳は事の成り行きを楽しんでいる体を崩さない。
そこで奴の興味も失せたのか、まだ1時間目も始まっていないのに机にうつ伏せる。
俺はこの時、当然のことながらこの後起こる事なんて知る由もなかった。



***





「(……だああああ、鬱陶しい……!)」


さっきから引切り無しに震える電子媒体。
もとい携帯にはほぼ30分置きに白石からメールが入ってくる。
仮にも病人なんだから大人しく寝とけっての!
元々頻繁にメールをしない性分故か、来たメールにはきっちり目を通すのだが。
それもそろそろ億劫になってき始めた。

なぜなら。


「(『淋しい』じゃねえよ! 返信に困るメール寄こすなし……!)」


どの本文もこんな感じなのだ。
単語一語とか現在状況だとか。返信を必要としていないような内容。
離れた学校に居る俺にどうしろと!
そうこうしている間に折角の昼休みは刻々と過ぎていく。ああもう。


「(! また来た……、……)……はあー……」
「今度はどしたっちゃ?」
「……白石ん家行って来る」
「ほう……そるはまた急な話たいね」
「あいつから同じメールしか来なくなった」


つかメールがウザい、そう言って少々乱雑に机の上を片付けて軽い鞄を肩に引っ提げる。
ノートは……前の奴に借りれば大丈夫だろう。
去り際に「白石に宜しくー」とにこやかな笑みを向けて来た千歳の頭を叩きたくなった。
人事だと思ってからに。俺だって好きで行くわけじゃねえっつの!



***





「蔵―……ほら、冷えピタとゼリ、っうおわ!?」
「なまえくんやあ! っほんまに来てくれたん」
「病人が何タックルかましてんだよ! ったく……大人しくしとけって」
「なまえくんが来るまでしとったもん」
「もんとか可愛くないし女子の特権だから。いいからほら、早くベッドに戻る。ハウス!」
「俺は犬とちゃうし!」


と白石は文句垂れるが、部屋に入った途端に飛びついて来た様を見ると犬にしか見えない。
俺の腹にひっついたまま離れようとしない奴を半ば強制的にベッドに押し込み床に座る。
曲がりなりにもこいつは今風邪を引いているのだから。
そう自身に言い聞かせてこの空間に居てやるのだが。
さっきから視線が邪魔くさい。


「……何」
「いや、なまえくんが居ってくれて……嬉しい」
「何だそれ、いつも居んだろ」
「そ、うやけど、そうやないねん……」
「? そういや、病院には行ったのか?」
「……なまえくんが来てくれたから、治ったで!」


なんて世迷言を言った直後に咳込む白石。遂に熱で頭までやられたか。
……、元からか。どうにかならないかな、この残念な脳内。




むしろお前は病院へ行け。



(そんな熱っぽい顔で言われたって説得力ないっつーの)
(内科又は小児科の後は当然ながら精神科の受診をお勧めする)




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