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只今、俺は好奇の眼差しというものを体験しております。


「……はあ……」


先日、押し切られる形で昼食を共にしてしまった結果。
毎日何故か白石と昼休みを過ごす羽目になったという。
俺の平穏は何処、そう嘆いても何も変わらない。

ので最早諦めの境地だと思うんだ、うん。

さてそんなモノローグはさておき、今重要なのは机の上に広げられた弁当である。
向かいに座るのは晴れやかな表情の白石。
その手には美味しそうな食べ物を乗せた箸があって、段々と近付いて。


「はいっ、なまえくん! あーん」
「いや、あの……自分で食べれます……」
「……っむう……あーん!」
「っむもがッ!!」


可愛らしい台詞とは裏腹に遠慮なく口ん中にぶち込まれた食べ物。
余りの勢いの良さに軽く噎せ返る。
痛いです。いや、マジで!

だけれどこっちの苦痛なんて露も知らず、白石は「味、どや?」なんて尋ねて来た。
その顔が思いの外不安気だったもんだから。


「……ん、……普通に美味いけど」
「ほんま!? 良かったあ」


正直に美味しいと伝えて。
その言葉に目一杯頬を綻ばせた白石に胸中に占めていた文句が霧散してしまった。
昨日も思ったことだが、白石の弁当はお世辞抜きにして美味しい。
美味しいのだが、問題が一つ。


「次はこの大葉巻きやで! あーん」
「……あー……、んく……なあ、白石」
「白石?」


ぎろり。
今までの癖で名字呼びしたら途端に形の整った眼はつり上がった。
声のトーンもかなり下がって、あからさまに不機嫌になる。
だから端正な人の怒り顔って怖いんだって。


「……く、蔵……」
「何や?」
「え、と……あの、自分で食べたいんだけど」
「却下。はい、次はご飯や」


差し出された白米を恐る恐る頂戴して、にっこりと頬を緩めた白石に胸を撫で下ろす。
最初から最後まで白石の箸で食すというのは食べ辛いことこの上ない。
意を決してさっきのように申し出ても間髪入れずに却下。
とことん俺の意見は無視なようだ。横暴!


「っはい、これで完食や! なまえくんはええ子やなー」
「俺は餓鬼か」
「えー、じゃあ……よーしよしよしよし!」
「ムツゴロウか!」
「ははは!」


手加減なく頭を撫で回す手を払い除けると、腹を抱えて笑い転げる白石。
そんなに俺を弄って楽しいか。こら。
なんて凄みも心の中に閉まって、ぐちゃぐちゃにされた髪を整える。
言ったって無駄なのはこの数日で嫌ってほど理解させられた。
結局こいつは自分の意思にしか従わないのだ。


「はー……」
「何、怒ったん?」
「別に」
「堪忍な! なまえくんて弄り易うて、ついな」
「どうせ、俺は弄り易い男ですよー」


不貞腐れたような台詞を吐いて、ああ俺って大人げない。
この苛高を遣り過ごそうとするのだが「ごめんてー機嫌治してぇな」という面白気な声が邪魔する。


「も、少し黙っとけ……」
「……分かった」
「……」
「……」
「…………なあ」
「お前は我慢を知らないのか」


少々ぶっきら棒に言ったのが幸いしたのか、存外あっさり従ってくれた。
成程、次からこういう風に言えば良いのか。
なんて内心ガッツポーズしたのも束の間。
数秒も待たずして白石は口を開いた。
もう少し待ったって良いだろうに。数秒っておま。




「今日の弁当も問題あらへんかった?」
「……毎日毎日なんだよ」
「いやー、やっぱ作った身としては……気になるやん?」
「……何、毒でも盛ってたとか」
「どきっ!」
「え?! 盛ったの?!」
「エー……マサカ、ソンナコトセエヘンヨ?」
「片言ですけどぉぉおお! え? ちょ、マジで言ってる?」




思わぬ爆弾発言に俺は必死に白石の肩を揺さ振った。
仮にも恋人の弁当に毒を盛るってどういう了見だよ!
こっちの必死さとは裏腹に「まあ、落ち着きや」と白石は悠長にも言い放つ。
今こいつの顔を殴らなかった俺を褒めてやりたい。
こちとら命かかってるんですけど!お分かりですか、白石クン。


「毒は盛ってへんよ。毒は」
「やけに含みのある言い方だな」
「毒なんて恋人に盛るわけないやん」
「……じゃあ、何を盛ったんだよ」
「毒草や!」
「やっぱ毒じゃねぇか!!」


左手の親指を立てて嫌味なまでのドヤ顔。
これをご覧の皆様。こいつを殴っても良いでしょうか。良いですよね。


「よーし、歯ぁ食いしばれ白石」
「蔵やって言っとるやろ! ……まあ、話は最後まで聞きや」
「……」
「毒草っちゅーのわな、量によっては毒にも薬にもなるねん」
「……で? 弁当に入ってる毒草は薬だって言いたいのか」
「Yes!」
「無駄に発音良いな! ……ああ、もう……怒る気失せる……」


項垂れた俺、みょうじなまえは心労で早死にしそうです。




毒草ダメ、絶対。



(どこの世界に恋人に毒草入り弁当を作る奴が居るんだよ)
(安心しや! 俺、毒草にはめっちゃ詳しいねん!)
(そういう問題じゃねええええ!)




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