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「みょうじ―! 今日の弁当は豪勢だぞっ」
「……はあ」
「何だよその反応! もっと嬉しそうに出来ねぇのかよ!」
「と言われても……」


どん! と机の上に置かれた弁当が入っていると思しき包み。
確かに普段よりかなり大きな包みである。
普通の奴ならこの中に丸井自身の分も含まれていると考えるだろう。

だがしかし、それは大きな間違いだ。
相手は大食漢で有名な丸井ブン太。自身の弁当は別に避けてある。


「食後のデザートはグレープフルーツのゼリーだ!」
「……ども」
「「……」」


みょうじが全校集会で倒れた日を境にみょうじと丸井の関係は大きく変化した。
……という結果を俺は望んだんじゃがのう。

正直なところ。進展というよりは復元といった方が相応しかった。
丸井が弁当を作ってきてみょうじが渋々食す。
まあ、渋々という様子は見受けられないからそこは進展したといっても良いかもしれない。
それにしても。


「……お前さん、ゼリー本当に好きじゃな」
「まあ、そっすね」
「……そんなに毎日食ってて、飽きねぇわけ?」
「全然」


という会話をけろっとしているあたり本当にゼリーを好んでいるようだ。
昼食のメインである弁当よりも先に手を伸ばす行為からも分かるけれども。
しかも、その手は今しがた丸井に叩き落とされた。


「デザートは食後! いつも言ってんだろい」
「はいはい……すいませんでした」
「で、だ。まず、このエビチリのタレに若干甘さを出すためにとろみをだな――」


長い。何故か弁当の解説が長い。

酷い時は俺が食べ終わった頃合いに講釈が終わることもあった。
どう考えても長過ぎじゃろ。
俺だったら話の途中で弁当に手を付けてしまうだろう。
赤也も然り。
現に今も口角がひくつかせながら昼食の一部であるパンを頬張っている。

だけれど、みょうじは文句を一切言わずに話を聞いていた。
いや、実際に頭の中に入っているかどうかは別としても。
ちゃんと相槌を打って聞いていた。




「――……ってなわけだ、さあ食え!」
「……いただきます」
「、ブンちゃん」
「何だよ仁王。この弁当はみょうじんだから、やんねぇぞ」
「いらんよ。やのうて、その前置き何とかならんナリか」




ちらり、みょうじが食べながら視線を投げて寄こしてくる。
まあ直ぐ視線自体は弁当に落とされたが。
丸井は丸井で話をしているにもかかわらずもっさもっさと食べ物を口に運んでいた。


「……別にお前に迷惑かけてねぇじゃん」
「いや、みょうじが可哀想やき」
「赤也、水取って」
「ん」
「さんきゅ」


俺の言葉に丸井は怪訝な顔付きをして、俺ではなくみょうじと向き直った。
ぐっと至近距離まで顔を寄せて……ってそれじゃ食べ難かろうに。


「そーなのか? みょうじ」
「別に……丸井先輩の好きにしたらどっすか」
「だってよ」
「……何とかしようとした俺が馬鹿じゃった」


目頭を指で押さえ天井を仰ぐ動作をする。
せっついたのは確かに俺だが、いざ目の当たりにすると疲れる上にウザい。

なのに、疲労を感じているのはどうやら俺だけのようで。
目の前では(確かに)豪華な弁当に箸を付けようとした赤也が丸井にこっぴどく叱られていた。
みょうじはスルースキルが高く、その光景をガン無視。


「あーッ! ちょ、みょうじ!水で流しこむなって、身体に悪いんだかんな」
「あーはいはい」
「だああもう!! 反省の色が全ッく見られない! 今日の晩飯も押し掛けっぞ?!」
「……先輩、今日弟くんらを迎えに行く日じゃん」


お前さんはみょうじの母親か。
つか、何でみょうじは丸井の今夜事情を知っとるんじゃ。
突っ込みどころが満載過ぎて頭が痛い。
しまったとでも言うかの如くうんうん唸りだした丸井を雑然と見ているとふと服の裾が引っ張られた。


「仁王先輩」
「……何かのう、みょうじ」
「これ、今のうちに切原にやってもらえます?」


そう言って差し出されたのはエビチリとポテトサラダ、唐揚げ等が詰められた弁当箱だった。
問題の赤也は何かぶつぶつと呟きながら机に突っ伏している。
食べかけの弁当箱と赤也、みょうじと見やって「早く」と急かされた。


「赤也、起きんしゃい」
「何すか仁王先輩……今邪念を追い払ってるんすから邪魔しないでくださいぃ……」
「そんな赤也にみょうじから差し入れぜよ」
「! っえ、でもこr「やる。から食え」


有無を言わせない声音でみょうじは赤也に言い放ち、そして丸井の気を引くためか奴と話出した。
ほう、赤也には普通に優しいんじゃな。
そうして横で嬉々として花を飛ばす赤也。同じくみょうじと話をして花を飛ばす丸井。

俺の周りは花だらけだった。気持ち悪い。




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