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太陽が南中を通り過ぎてから数時間。
学生の本分である授業も終わり、時刻は部活動開始の頃合い。
部固有のジャージを身に纏う人混みの中を彼女はセーラー服をはためかせて走っていた。

目的の人物を目指して。
一階からありとあらゆる場所を覗き時には人に尋ね、三階の図書室の一角で漸くその脚を止める。


「なまえ! やぁーっと見付けたで!」
「ん、蓮華……? どしたん、そない大きな声出して」
「どしたん、やない! もう部活の時間やで。白石くんらが心配しとったわ」


ぱきぽきと音を立てつつ大きく伸びをしたなまえはおもむろに席を立った。
そして、半分落ちかけている目蓋を擦りながら蓮華に近付く。
大きな瞳を吊り上げていかにも怒ってますといった表情をする蓮華になまえはふっと笑みを溢した。


「何笑てん」
「いや? ただ蓮華がかわええなって思ただけやわ」
「誤魔化そうとしても無駄やで。今日という今日はちゃんと白石くんに叱ってもらうんやから!」
「げ、……堪忍してぇな」


あかん!と言った言葉より早くなまえの手首を掴んで蓮華は再び走り出した。
それに引き摺られる様になまえも脚を小走りに進める。
向かう先はテニスコート。



***



青々と覆い茂る木々を走り抜け、身長差故のずれに走り難さは増すばかり。
だけれど前方を駆ける蓮華はそんなことはお構い無しで。
徐々にキツくなってきた体勢を改善すべく声をかけるも敢えなく無視。

そして、開けた視界。




「お、やっと眠り魔のお出ましや!」

「小柳さんはなまえくんを見付ける天才やんなぁ」

「なまえ先輩用アンテナでもあるんやないですか」

「あり得そうったいね」

「愛があるんやねぇ……羨ましいわぁv」

「遅いでー寝坊助なまえちゃーん」




謙也、白石、財前、千歳、小春、ユウジ。
誰もが笑って軽口を叩いて。
和やかな日常。
穏やかな風が辺りを吹き抜けて直にやって来るであろう夏の猛暑を導く。


「さあ白石くん! なまえを叱ったってや!」
「蓮華ぁ……ホンマ酷いわ……」
「うちは悪くあらへん! 眠りこけとるなまえが悪いんや」
「なまえはん、自業自得やで」
「銀まで……はあ……白石ー、お手柔らかに頼むで」
「えーどないしよか」


少し考える素振りをした白石はどこか楽しそうで、対するなまえも小さく笑っている。

その後軽い説教を食らって、解放された時には他の部員は部活を始めていて。
でも蓮華はずっと真横に立っていた。


「これに懲りたらもう寝過ごさんことやね!」
「……何や嬉しそうやんな」
「……そう見える?」
「おん。めっちゃ嬉しそう」


人差し指で蓮華の額をこずいてやれば、照れた風に目を伏せる。
不思議に思ったなまえは小首を傾げて頬を少し染めた彼女は口を開いた。
そこにさっきまでの快活さは見受けられない。
変わりに在ったのは。




「うちな、皆と仲良くしとるなまえが好きやねん!」




眩しい程の朗笑。
頬を撫でた風は暖かかった。




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