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白石が初めて学校を無断欠席してから3日が経つ。
品行方正なあいつには有り得ない由々しき事態や。
しかもどういうわけかなまえも同じく無断欠席。

千歳は心配の色を隠せないようで落ち着きがなく、ユウジは頻りに連絡を取ろうとして失敗していた。
現に俺も二人と連絡が付かなくて困惑しとる。
そして、一番目に見えて不機嫌だったのは光だった。


「光……? ど、どしたん。そないな怖い顔して」
「……なんや、財前。言いたいことでもあんのか」
「……なまえ先輩ん家行ったら……全部分かるんとちゃいますか」


どうせ部長もそこやろ、苛立ち混じりに携帯を鞄の中に投げ付けて。
ガジ。右手親指の爪をかじった。





今まで立入を禁じられていた家に、やっと俺は居る。
二人とも浮き足立っとったけど、確りと携帯を握り締めた一氏先輩だけは変わらなかった。
呼鈴を鳴らせば中から激しい物音が鳴って、玄関を開けたのは。


「なまえッ! 、ぁ……っ」


憎くて堪らない部長の面。3日前よりやつれていた。
俺らの顔を見た瞬間にドアノブを引こうとするから足先を引っ掻けてそれを阻む。


「ッ、財前……足外し……!」
「なまえ先輩は何処ですか」
「!! 入ってくんなやッ!」


無理矢理中に押し入ろうとしたら血相を変えた部長に邪魔されて俺は外に逆戻り。
後ろから一氏先輩に窘められたから仕方なしなしに一歩下がって、部長にも聞こえるよう舌打ちしてやった。





蒼白い顔を俯かせた白石。
誰一人とも目線を合わせようとしない。
俺の嫌な予感は残念なことに当たってしまったようだ。


「白石……なまえはもう、ここには居らんのやろ」


ビクッと肩が跳ねてゆるゆると白石が顔を上げれば、もう笑うなんて動作はしなかった。
泣き腫らした目蓋をまた濡らして漏れた小さな嗚咽。
唇を噛み締めた無言は肯定。
後ろで「は、ぁ?!」と声を荒げた財前を謙也が全力で押さえ込んで、俺は話を続ける。


「親御さん心配してんで」
「やや……! ここから、離れたない……っ」
「……ばってん、一旦帰った方が良かよ」


優しく白石の頭に手を置いた千歳は悔しげだ。




皆と別れた後、覚束無い足取りで歩いていく白石に不審と不安が相俟って後をつけた。
ふらり。白石の華奢な身体が踏切のバーを越えて動かない。
喚く警告音。


「ッ、白石!!?」


電車はすぐそこにまで迫っている。
無我夢中で走って突き飛ばして道路に二人して転がれば数秒待たずして轟音を上げた電車が駆け抜けていった。


「ッ何しとっと!! 死ぬところやったけん!!」
「な、で……助けんねんっ……! ――――死なせてや……ッ」


キッと下から睨み上げられて数ヶ月前の出来事を重ね合わせる。
ただ、今白石の瞳が湛えているのは怒りではなく悲哀。


「白石……!」
「なまえの、居らん世界なんて……意味、ないわっ……!」


道路の上に横たわったままそう涙を流す白石が酷く痛ましい。
透明な滴が目尻から米神へ、そして道路を湿らす。




「なまえ……っなまえ……ど、してあんとき、殺して……くれなかったんやぁ……ぅ、なまえッ……!」
「っ、!!」



まだ。居なくなってもまだ。
憎きみょうじなまえは白石を縛り付けて離さない。




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