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『白石、俺コイツと付き合い始めてん』
『っ……そ、そか。おめでとさん』
『白石くん、おおきに!』


お似合いやと思った。
否、思わざるを得なかった。
彼女は俺に出来ないことを次々とやってのけて、欠点なんてものが存在しなくて。
入れない。1oも。


『――――れん、か……ッ!!』


白い布を被せられた小柳さんの前で泣き崩れたなまえ。

事故の目撃者は俺。
救急車に連絡したのも俺。
病院搬送に付き合うたのも俺。

目撃したのは本当に偶然。
でもこれは俺の天命やと思うた。
だって元を正せば原因は俺の。


『なまえ……浮気したってホンマなん……? 手紙が、入っててん』
『、蓮華は……俺より、そんな手紙を信じるんかっ』
『そ、そやなくて! やっぱこういうことは本人に、』
『……もうええ』
『っあ! ……待っ、……なまえッ!』


かっと目を見開いて見知った天井。
それに、はーっと大きく息を吐いたところで、身が清められているのに気が付く。
服もきちんと着せてあった。
嫌な胸騒ぎを感じて横を振り返り見て、隣はもぬけの殻。
慌てて手を触れてみればひやりとした温度。

なまえがここを離れてからかなり経っているようだ。


「……う、そ……嘘……ッ!」


声が焦って上擦る。
背筋に汗が伝う気持ち悪さがどうでも良いぐらいに混乱して、転がり落ちるようにベッドを降りる。
家中を駆けずり回ってなまえはどこにも居ない。
だけれど、携帯・財布等々外出するのに必要な類いの物は全てあった。


「、なまえっ……どこに、……ぁ」


何気無く玄関戸に付いている郵便受けを覗いて。
カラン。軽い小さな音。
転げ落ちてきたのはこの家の鍵だった。
鍵は掛かってるのに今ここに鍵がある。つまり。


「ぁ、……ゃ……なまえ、ッなまえ……!」


床に転がった鍵には見向きもせず元居たなまえの自室に逃げ込む。

認めなくなくて。信じたくなくて。

バンッと乱暴に入り口を閉めて、喉を震わせた。
何もしていないのに呼吸が荒い。

とその時ふと使い込まれた携帯が目に飛び込んできた。
人のましてやなまえの携帯を盗み見するなんて。
罪悪感に苛まれながら携帯を開けて見た画面はEメールメニュー。
未送信メールというか送信失敗メールの数の多さに眉を曇らせ、一番新しい今朝のものを開いてみる。


To:蓮華
Sub:
本文:
なあ蓮華、いつになったら会うてくれるん?
あん時は俺が悪かった。
謝るから、戻って来てくれへんか。
蓮華が傍に居らんと俺アカンねん。
一人にせんといて。
待っとるから。


画面を下にスクロールしていって徐々に文字が霞んでその外形を崩し出した。
アカン。止まらへん。
堪らず右手で口元を抑えて、一つまた一つと水滴が携帯に付着して床へ滑るように滴る。
これは。


「……っぅ、ぁ……――ッく、……なまえっ……!」



――――…蓮華、愛しとる



完全なる拒絶の証。
震えた左手から携帯が落ちれば鈍い落下音が鳴って、両手は顔を覆う。
額が床に付くぐらい腹を折って、もう抑えきれなかった。




「なまえ、っ……なまえッ、ぅ……、あ、ぁあ、ああぁあ――――ッ!!」





何分か何時間か知らないが空が白んできた頃。
不意に部屋の隅に追いやられた俺の鞄ん中から携帯が鳴った。
でも、今の俺にはひどく遠くて。




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