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不仲な両親。
顔も名前も知らぬ親戚。
風変わりしている俺から離れてく周り。

別にそれで良いと思っとったはずやった。
物理的距離が近くたって傍に近かったことは一回だってないから。


「蔵、おいで」
「! おん」


唯一ユウジだけは違ったから申し訳ないことに今でもかなり依存してる。
重たいとも悪いとも思てる。
それでも俺にはユウジしか居らへんかった。
他に俺を普通の視線で見てくれる奴は居らんかったんや。

アイツが現れるまでは。
冷めた俺とは対照的なまでに温かく柔らかい子。
俺にはホンマに勿体無い。


「……、どしたん?」
「、別に」


綺麗やった。眩しかった。……羨ましかった。
傍に居ったら俺もアイツみたいに生れる気がしたんや。
ほんの少しでええから。

でもやっぱりアカンかった。
最後の最後で俺の手からすり抜けてもて。
一度知って味わってしまったが故に、昔は何ともなかった事が苦しくて辛くて。

それが良いのか悪いのかも分からず毎日が真っ暗だった。
もう、全てがどうでも良かった。
そんな中現れたのが白石。



『なまえくん……俺を小柳さんの代わりに使うてや』

「……? なまえ、?」

『俺、なまえくんの事……好きやってん』



泣きそうに笑う。
こいつもまた綺麗な奴やった。
アイツみたいな面が多々あって、初めの頃はそれこそ蓮華として扱って。
でも、違った。違うんや。

白石はどう足掻いても白石であって蓮華になり得るはずがなくて。
最も傍に居って欲しい蓮華が在らないのに、俺の隣には憐愛の眼差しをした白石が在る。
この関係を了承したのは他ならぬ己自身だったはずだ。

だけれど、蓮華が傍に居らん事に堪らなく苦痛を覚えた。


「ッ?! っ、ぁ……ッ!!」


抱き締めていた腕の位置を変えて細い首を捕らえれば、そのまま全体重を乗せて床へと押し倒す。
形の良い白石の瞳が驚きで見開かれ、びくりと喉が跳ねたのを手の平越しに感じて。
こちらを反らすことなく見つめる視線に内心戦く。


「……っぅ、ぁ……ッ……!」


白石の瞳は恐怖を訴えていた。
それなのに奴は呼吸を妨げる俺の手を振り払おうとはせず、はっきりとした拒絶を見せない。
ただ、苦しそうに喘いでいた。

微かに漏れる呼気。
だけれど、それさえも許さないよう更に力を籠めれば変色し出す顔面。
確実に迫っているであろう死の感覚に怯えながら白石は戦慄く唇を動かす。



「なまえ……す……、き……ッ」



掠れた声はほとんど音をなしていなかったがそれは確かに俺の耳に届いて、俺は弾かれた様に手を離した。
急に入ってきた空気に盛大に噎せた白石は反射的に両手を首へ。
動悸が激しい。
徐々に生きた血色を示す白石を視界に入れ、俺をじっと見つめる白石にふと蓮華の顔が過った。

悲愴感漂う傷付いた表情。
あの日と同じ。
花の様な彼女が最初で最後に見せた俺の嫌いな。


「っけほ、……なまえ、」
「……、っ……」
「まだ、……生きとるよ……!」
「……ッ、見んなや!!」


バチン! 俺の手が思い切り白石の頬を張り倒す。
横倒しにされてもめげずに「……っ……ごめんな、さいッ……!」と謝罪を口にした白石は俺にひっついてきて。

いつもより少し低い体温。
幾ばくか速い脈拍は必死に白石を生かそうとしていた。




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