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深い眠りから浅い眠りに転換された丁度その時耳元に置いておいた携帯が泣き喚く。
またか、働かない脳内で状況を整理。
寝ぼけ眼で掛け時計を見やれば短針が午前4時を指していた。

明け方やないか。
ぼんやりしている間もなまえ専用の着メロは鳴り続けている。


『ユウジ見てみぃ! 携帯やで携帯! 俺専用の電番が出来たわ!』
『ホンマや! ええなぁ大人みたいやん』
『一番にユウジの番号登録したいねん! ええやろ?』
『当たり前や!』


そう言って携帯を突き出すなまえは本当に嬉しそうで。
固定電話のない奴の家に両親はほとんど不在だった。
左親指で通話ボタンを押す。


『……ユ、ウジ』
「、泣いとるんか?」


いつもの代役かと思ったが俺の名を呟いたなまえの声には掠れが混じり、どこか覇気かない。
図星だったのか奴は口を噤み小さく鼻を啜る。
最近は比較的安定していたから安心しとったんに。


「なまえー? どしたんー? 俺はここに居るでー」


出来るだけ優しく柔らかく、なまえを責め立てない声音を心掛けた。
俺がなまえに甘いんは今に始まったことではない。
だけれど受話器の向こうで奴は黙したまま、無音が返ってくる。


「エスパーやないんやから、言わな分からんで?」
『……蓮華が、……笑うんや』
「おん」
『何度も何度も、笑って言うんや……ッ!』


震えて慄いた声。
ああ、なんや。昔に逆戻りしてもうたんか。

ガシャンと硬質でいて薄っぺらい硝子が砕ける雑音。
興奮気味に荒がる呼吸は酷く浅い。
断続的に続く破壊音の合間に『止めや、』とか『見、んといて……』の懇願が聞こえる。
数分経ってなまえが無言になったところで、俺はただただ待つだけ。



『ユ……ジ……』
「なん」
『も、アカンわ……ッ、堪忍な、』



呼気も意識も整わずに悲観を孕んで呟いた言葉。
反問をする前に電話回線がぶつりと切れた。
ツーツーという無機質な電子音がいやに耳について離れない。


「もう……限界、やろか……」


俺もあいつも白石も。
なまえの中には小柳が未だに色褪せることなく存在している。
しかも誰もが、それは都合の良い妄想だということを知っている。

そう。
ここの周辺だけが、あれ以来ずっと止まったままなのだ。


「……なまえ、」


悶々と熟考している間に太陽が顔を覗かせて街並みを照らしていた。
止まっているが故にここに変貌は望めない。
変わらない日常は振り出しに戻って、また同じ時を繰り返す。



「ははっ……ホンマ、役立たずやな……」



なまえの両親はある日なまえを置いて別々の恋人と出ていった。
荒んだあいつを丸くしたのは他でもない小柳で。

俺には何も出来なかった。

だからせめて、人が離れてくのを嫌うあいつの傍らに在り続けようと決めたんや。




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