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「謙也―、ほい。この前言うとったカメラ」
「おお! やっと返ってきたわ」


めでたく俺と光とをくっ付けるという大仕事を果たしたカメラを元の持ち主である謙也に渡す。
一応問題の録画したデータは消したんけやど。
……ホンマに消えとるよな? これで残ってたとか言ったら俺が光に殺される!


「……ああ!!」
「ぅお!? ……な、ななしたん」
「おま、データ全部消したやろ!!」
「消したけど……って、全部? え? うそ!?」


見てみぃや! と眼前までカメラを押し付けてきて、確認してみれば確かに見えた「データがありません」の文字。
俺、間違ってあのデータだけやのうて全部消したんか。


「謙也すまん!」
「これにはなぁ……これにはなあ! 俺のスピーディーちゃんの勇姿が入っとったやッ、アホなまえー!!」
「ホンマにすまんって……」


未だカメラを持ったまま戦慄く謙也。
どないしよう。こいつが自身のペットを溺愛してんは周知の事実。
きっと睨んできた奴に数歩後ずさりし、次の台詞に度肝を抜かされた。


「罰として今度のライブの喋りは自分がしぃや!!」
「はあッ?!! ちょ、それ謙也の仕事やろ!」
「文句あんのか?! ああ?!」
「全力でやらせていただきます」
「……あんたら道のど真ん中で何やってんねん。邪魔っすわ」


完全に切れとる謙也に90度の角度で頭を下げている俺。
とそこに倦怠感を垂れ流す光が現れて、自分達の立っている場所を思い出した。
二人揃って辺りを見回せば次々に視線を反らす人達。
めっちゃ目立ってんやん。


「で、何でなまえさんが頭下げてん」
「いや、実は「なまえが俺のカメラのデータ全部消してん!!」
「カメラ? ……ッ! そ、れ」


謙也の手にあるのが例のカメラだという事に気付いたのか光が息を飲む。
若干頬も赤らんだ。
でも、怪訝そうな表情は崩さなかったからきっと謙也にはバレてないやろ。


「罰として今度のライブの喋りをやらせんねん」
「ああ……なまえさんライブの喋り嫌いやから」
「……ホンマ、嫌や」
「……ま、頑張ってください。俺は帰るんで」


明らかに落ち込んでますーといった雰囲気を醸し出したのに全く乗ってこないで背を向けた光。
ちょっと冷たないか、そう思うも光やからしゃーないかと自己完結させて
重たい足取りで練習場所に二人で向かった。

付き合うてからの財前に変化はなく。なんか、今まで通り。
ま、俺は別段気にはしないけれど。
肌を突き刺す木枯らしが全力で俺らの間を駆け抜けていって。
時期はそろそろ晩秋が終わる頃だった。



合わない歩幅が心地良い



なんやねん、あの人。
散々喋るの嫌や言うといて。嫌いとか嘘ちゃうか。

今日のなまえさんらのライブは大盛況。
ホンマにライブで喋るのが初めてかと疑ってしまう程になまえさんの喋りは上手かった。
ドラムをやっとる謙也さんが吃驚した顔しとって、正直そっちもおもろかったけど。
心ん中は暗く重くもやもやとしていた。


「……はあ、」


あのライブは大成功と言えるだろう。
でも、改めてなまえさんの人気の高さが思い知らさせた。
客の半数……はオーバーかもしれんけど、確実に3割はなまえさん目当て。
しかも今回は珍しくなまえさんの喋りやったし。

また、なまえさんのファン増えたやろな。



「欲張りやんな……ホンマ」



なまえさんはいつも俺を優先してくれとるのに、大切にしてくれとるのに。
俺は何も返せんと甘えてばかり。
それこそ初めの頃は気持ちが報われただけで良かったと思っていたはずや。


「たらいまーひかぁー」
「! なまえさん、おかえりなさい」
「んん? どなぁしたん? げんきないでぇ」


全身からプンプンと酒の臭いを巻き散らかして俺の顔を覗き込む。
泥酔してるなまえさんにすら分かる程俺は顔に出とったんか。最悪。


「って、ちょ待ッ……なまえさ、!」
「とりゃあず、いたらきまぁーす」
「こ、こらッ……勝手に、脱がすな! ……、ぅ……ぁ!」


酩酊しているはずであるなまえさんの手付きはいつも何故か機敏だった。
あっちゅう間に身包みを剥がされて、火照った掌が自身を握り込む。


「ひかぁ、らいすきやでぇ」
「ひぅ! ぁ、あほぉ……俺も、やッ……ん、は」


毎度の事べろべろななまえさんに流されて、頭がぐちゃぐちゃに掻き混ざられて。
さっきまで悶々としとった事が全部熱さに蕩けて消えていく。
甘く舌っ足らずな口調にじわじわと脳内は侵食され出して、悲鳴染みた声と共に真っ白に爆ぜた。






「ほッッんまに申し訳ない……!」
「いや、別にええんやけど」
「……光足腰立たなくなってるやん」


確かに痛くて怠くて動けないけども。
最終的には俺からも強請ったし……て言うてんのになまえさんは中々引いてくれへん。


「アカンな……光のこと大事にしたいのに」
「今でも十分……大事にしてくれとるやないですか」
「せやかて、!」


まだ食い下がるなまえさんの口を俺のそれで塞ぐ。
思う存分なまえさんの口腔を堪能したところで顔を離す。
唇を湿らす液がひどく艶めかしい。


「俺がええって言うてんやから……ええんです」
「光……ありがと。……むっちゃ好き」


ぎゅう、と力強く抱き締められて。
付き合うてからのなまえさんは俺にひどく甘い。

甘過ぎて溺死しそう。




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